カンボジア 2013年9月17日

カンボジア第三の世界遺産候補地で
若き日本人女性が体験型ツアー会社を起業

朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住。現在は現地のフリーペーパーの編集長を勤める木村文さんのカンボジアレポート。今回は、学生時代にカンボジア第三の世界遺産候補地と出合い、その歴史と人々に魅せられて、観光業をスタートさせた若き女性起業家の物語。

 カンボジアの「アンコール遺跡群」は、世界遺産にも登録され国際的な観光地として名高いが、中部コンポントム州には、そのアンコール遺跡群よりも古い7世紀に栄えた「サンボー・プレイ・クック」遺跡がある。あまり知名度は高くないが、アンコール遺跡群、タイ国境のプレアビヒア遺跡に次ぐ、カンボジア第三の世界遺産候補ともいわれる。

 深い森に囲まれた静かなサンボー・プレイ・クックは、観光客でにぎわうアンコール遺跡群とはまた違う魅力にあふれる。そのサンボー・プレイ・クックを舞台に、一人の日本人女性が、新たな観光ビジネスを立ち上げようとしている。なぜ、アンコール遺跡よりもずっと「地味」な存在のサンボーに魅せられたのだろうか。

森に囲まれたサンボー・プレイ・クック遺跡の一部。広い範囲にレンガを積み上げた建物が点在する。外壁に「空中宮殿」など見事な彫刻がほどこされている塔もある=コンポントム州で【撮影/木村文】

大学2年の夏、知恵と工夫に満ちた生活に魅せられて

 この女性は、北海道出身の吉川舞さん(28)。今年、サンボー・プレイ・クックで個性的な体験型ツアーを提案する会社「Napura-Works(ナプラ・ワークス)」を立ち上げ、集客に向けて準備をしている。

 吉川さんは5年前に早稲田大学を卒業してすぐ、アンコール遺跡群のあるシェムリアップに移住。日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA/JASA)の現地広報を務めながら、一般観光客からスタディツアーまで年間1200人、通算で4000人以上を遺跡へ案内している。

 吉川さんが最初にカンボジアを訪れたのは、大学2年の夏。有名なアンコール遺跡群ではなくサンボー・プレイ・クックだった。スタディツアーで、遺跡周辺の村々の家計調査をして「衝撃を受けた」と言う。

「貧しい、苦しいと決めつけられがちな村人の生活が、実は知恵と工夫に満ちていて、大地に根を張った、非常に安定感のある暮らしであったことに驚きました。なんでも自分でできると思っていた生意気盛りの私でしたが、炊飯器がなければ、薪でごはんなんか炊けない。野草の種類も分からない。村の人たちの力を尊敬し、カンボジアの一つの姿として伝えたいと思いました」

 その翌年、吉川さんは、サンボー・プレイ・クック遺跡群と周辺地域の文化を学ぶ学生団体「Ju-Ju」を立ち上げ、以降、この遺跡と村に足しげく通うようになった。

 村人と語り合い、深く知るにつれ、吉川さんは「遺跡は、そこに住む人々とともに地域社会で育まれてきたもの」と、理解するようになる。遺跡だけを切り離して保存するのでは意味がない。土地に根差した「地縁」と「人脈」こそが、遺跡を今に生かしている、という思いを強くした。

 吉川さんは遺跡と人間社会とのつながりを「遺跡生態系」と呼ぶ。同じ遺跡を守る、という活動にしても、それぞれ固有の「遺跡生態系」を持つアンコール遺跡とサンボー・プレイ・クック遺跡とでは手法が違うはず、と考える。

「長い時間をかけて育まれたサンボーの遺跡生態系を尊重しながら、大好きな遺跡をここに住む人たち、訪れた人たちとともに未来へとつなげたい」。そう考えて、今年「ナプラ・ワークス」を立ち上げた。「ナプラ」の名前は、ここに7世紀にあった都市「イシャナプラ(北の都)」からとった。

サンボー・プレイ・クック遺跡の塔の内部。内部にはシヴァ神が安置されていた。天井に向かってぎっしりと積み上げられたレンガは、現代のサイズよりもずっと大きく、製造方法には謎が残る=コンポントム州で【撮影/木村文】

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