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逆境を吹っ飛ばす江上“剛術”―古典に学ぶ処世訓―

其の50「論語」を読む。あなたには
水滸伝の英雄「李逵」のような部下がいるか

江上 剛 [作家]
【第50回】 2013年9月17日
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 水滸伝は中国の有名な伝奇小説だ。完訳水滸伝(岩波文庫)で読んだ。

 水滸伝は、舞台は12世紀初頭。北宋の徽宗皇帝の頃、山東の梁山泊という水郷に108人の英雄たちが集まり、宋江を中心に、悪代官などをやっつけるという壮大なスケールの物語。しかし、最後は、宋江が皇帝に忠誠を誓うあまり、ずるがしこい皇帝の大臣たちにいいように使われ、困難な戦いに派遣される。そして英雄たちは次々と死んでいく。ようやく戦いが終わり、宋江たちはのんびりとした暮らしができるのかと思うと、悪い大臣の手によって毒酒を飲まされ、殺されてしまう。

 最後は、哀れで、読むに堪えない気持ちになってしまう。中国人は、義に忠実に生きた人間を讃えつつも、そういう人間は結局悲劇に陥り、最後に笑うのは、悪い大臣だと思っているのだろうか。

 結末は、悪い奴ほどよく眠る、といった具合ですっきりしないのだが、この水滸伝は、ある意味で「論語」的世界を体現しているように思える。

剛毅木訥(ごうきぼくとつ)

 どうしてそう思うかというと、主人公の宋江が、実に「仁」「義」を重んじる中庸の人物で、バランス感に富んでいるからだ。けっして本人は喧嘩が強いというわけではないが、慈悲深く「仁」の人間で、約束を死守しようとする「義」に篤い人間として描かれている。

 もう一つは、108人のうち序列22番目の黒旋風李逵(こくせんぷうりき)という人物の存在だ。

 李逵は、

 「子曰はく、剛毅木訥は仁に近し」(子路第十三)
(人の気質には、剛といって強くて何物にも屈しないものがあり、毅といって忍耐力が強くて操守の堅固なものがあり、木といって容貌が質樸で飾りのないものがあり、訥といって口を利くことが下手で遅鈍なものがある。この四つは皆、室が美しくて仁にちかいものである)(論語新釈・宇野哲人著・講談社学術文庫)

 という言葉が、実にぴったりとくる男なのだ。

 訳では、剛毅木訥を4つの気質に分けて説明しているが、私は分けることはないと思う。剛毅木訥とひとつで考える方がイメージしやすい。要するに頑固で、一本気で、不器用な生き方しかできないが、正直で忠実な人物ということではないだろうか。

 私は、水滸伝で誰が魅力的な英雄かと問われれば、この李逵をまず挙げたい。水滸伝には、多くの英雄が登場するが、まるで宋江と李逵の物語だといってもいいくらいだ。

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江上 剛 [作家]

えがみ ごう/1954年1月7日兵庫県生まれ。本名小畠晴喜(こはた はるき)。77年3月早稲田大学政経学部卒業。同年4月旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。高田馬場、築地などの支店長を歴任後、2003年3月同行退行。1997年に起きた第一勧銀総会屋利益供与事件では、広報部次長として混乱収拾に尽力する。『呪縛 金融腐蝕列島』(高杉良作・角川書店)の小説やそれを原作とする映画のモデルとなる。2002年『非情銀行』(新潮社)で作家デビュー。以後、作家に専念するも10年7月日本振興銀行の社長に就任し、本邦初のペイオフを適用される。


逆境を吹っ飛ばす江上“剛術”―古典に学ぶ処世訓―

作家・江上剛氏は、その人生で2回も当局による強制捜査を経験した。その逆境にあって、心を支えくれたのが、「聖書」「論語」「孫子」などの古典の言葉である。ビジネス界に身を置けば、さまざまな逆風にされされることも多い。どんな逆境にあっても、明るく前向きに生きる江上剛氏が、柔術ならぬ“剛術”で古典を読み解き、勇気と元気の“素”を贈る。

「逆境を吹っ飛ばす江上“剛術”―古典に学ぶ処世訓―」

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