新しい研究分野・ニューロビジネス
筆者が注目するミクログリア細胞とは

 筆者は、8月よりマレーシアのモナッシュ大学のビジネススクールに赴任している。筆者がこの大学に移った一番の理由は、そこで始められた新しい分野――ニューロビジネス――に魅力を感じたからだ。

 ニューロビジネスとは、大脳生理学的な研究手法を使ってビジネスに関するトピックを研究する学問分野だが、まだ始まったばかりで体系的に学べる分野として確立されてはいない。

 しかし、だからこそ多くの可能性を持つ分野であり、これからどんどん新しいことがわかってくるだろう。

 筆者がここに採用されたのは、最近の筆者の研究がニューロビジネス分野に近いものだからだ。

 筆者はここ数年、脳のミクログリア細胞が経済行動に及ぼす影響について、九州大学の精神医学者・加藤隆弘と共に研究を進めている。現在のところ、脳科学の研究のほとんどは、ニューロン(神経細胞)とシナプス(神経細胞間に形成される、神経活動に関わる接合部位とその構造)を研究対象としている。

 しかし、脳の中の細胞には他にもグリア細胞と呼ばれるものがあり、筆者が注目しているミクログリア細胞はその中の1つだ。

 脳内唯一の免疫細胞であるミクログリアの特徴は、脳の中を自由に移動できることだ。そして遺伝子解析により、我々がまだ単細胞だった頃に外から神経系に入り込んだ「部外者」であることがわかっている。

 ミクログリア細胞の機能については、まだ全てがわかっているわけではない。だが、これまでわかっている中で最も有名な機能は、「神経細胞のお医者さん」という役割である。

 損傷したニューロンを修復したり、あるいは破壊してしまうという役割が知られている。また見張り役として、ニューロンの不具合をチェックしていることもわかっている。