株式レポート
9月19日 18時0分
マネックス証券

14番目の月 - 広木隆「ストラテジーレポート」

 「幸せとは、健康であることと、忘れること」(イングリッド・バーグマン)

何もなかった

本稿のタイトル「14番目の月」は、ユーミンこと松任谷由実の4枚目のアルバム・タイトルである。「荒井由実」としての独身時代最後のアルバムだ。松任谷正隆がプロデュース、細野晴臣、山下達郎など超豪華メンバーが参加。ユーミンの代表曲、「中央フリーウェイ」がA面の5曲目に収録されている。CDになってからはA面もB面もないが、昔のLPではB面の1曲目に一番いい曲をもってきたりしたものである。LPには「レコード盤を裏返す儀式」というのがあったため、「B面の1曲目」という位置がそれなりに大きな意味を持っていたからである。

このアルバムのB面1曲目に収録されているのが、「何もなかったように」。ユーミンの愛犬だったシェパードの死を悼む曲だ。著作権の関係で歌詞を引用できないのが残念だが、非常に胸にしみる歌である。メッセージとしては、冒頭に引いたバーグマンの言葉がそれを表していると思う。

「ねえ、責任とってくれるんでしょうね?」という詰問に対して、「ごめん、なかったことにしてくれないか」という台詞を僕はしょっちゅう逃げ口上として使っているが、それで何もなかったことにして済ませてもらえることは稀である。大抵の場合、修羅場に発展する。

では、FRBはどうか?何もなかったことにして、マーケットは納得してくれるのだろうか。

今年最大のヤマ場として注目された今回のFOMC。大方の予想に反して量的緩和の縮小開始は見送られた。この決定を受けてNYダウ平均は史上最高値を更新し、債券は買われ金利は低下、金は急反発。一方、ドルは売られ、ドル円は一時、98円台割れまで円高が進んだ。

この動きをどう捉えるか?市場は、今回のFOMCでテーパリング(量的緩和の縮小)開始を見込んでいたのでサプライズとなったわけであり、こうした市場の反応は当然と思われる。しかし、このリアクションはサプライズに反応したものであるため、一時的であろう。市場が落ち着きを取り戻した後は、どうなるか、それを考えてみたい。

不確実性の高まり

まずひとつ言えるのは、再び不透明感が高まったこと。これはいずれボラテイリティの上昇につながり、相場にとってはマイナス材料だろう。株式市場は – 日米及び新興国の – 株式市場は、FOMCでのテーパリング開始を織り込んで動いてきた。今回、テーパリングが開始されても、100〜150億ドル程度の減額にとどまれば、市場への大きな影響はないという見方が醸成されていた。相場にとっては「不確実なこと」がリスクであり、「見切ってしまえば」それはリスクではなくなる。株式市場は、今回のFOMCの結果を「見切った」のであり、だからこそここまで上昇してきたのである。今後はもう一度、「見切る」プロセスの初めからやり直さなければならないのだ。

FOMCの声明にはこうある。
<連邦政府の緊縮財政の影響を踏まえると、1年前に資産買い入れを開始した以降の経済活動、雇用市場の改善は、広範な経済のすう勢が力強さを増していることと整合すると考える。だがFOMCは資産買い入れペースを調整する前に、この進展が持続するとのさらなる証拠を見極めることを決定した。>

バーナンキ議長は記者会見でこう述べた。
<われわれの意図は、経済がわれわれの一般的な見通しに一致しているか確認できる証拠を得るため、もう少し待つというものだ。> <今回の会合で資産購入ペースを小幅縮小することが適切かどうかを見極めるにあたり、資産買い入れの縮小を正当化する基本見通しを経済指標が十分に裏付けていないとの結論に至った。>

簡単に言えば、もう少し様子を見たいということだ。バーナンキ議長はこう強調した。
<資産買い入れプログラムはあらかじめ決まった道筋ではない。買い入れペースに関するFOMCの決定は引き続き、経済見通しやFOMCが想定する同プログラムの効果やコスト次第だ。>

「あくまで経済次第」 - それはテーパリングを示唆した当初、5月からずっと議長が言い続けてきたことである。ところが、何がどうなったらテーパリングを開始するかについては明確な基準があるわけではないのである。失業率やインフレ率についての言及はある。いわゆる「フォワード・ガイダンス」だが、それは将来の利上げに関するものだ。量的緩和の縮小については、「何も決まったものはない」「あくまで経済次第」と繰り返すだけである。バーナンキ議長は記者会見でこう述べた。
<目指している特別な数字はない。目指しているのは労働市場の全般的な改善だ。>
要は、振り出しに戻ったわけで、市場は再び疑心暗鬼になるだろう。不透明感の高まりは確かにマイナス材料だが、結局、経済指標に目を凝らし、米国景気の趨勢を判断するという、いわば基本に立ち返るだけのことである。

金利は上がらない

今回のFOMCがテーパリング開始を見送った理由は、そこまで確固たる景気回復の証拠が得られなかったため、というのが第一に述べられているが、もうひとつ、金利上昇に対する懸念が表明されたことは見逃せない。FOMCは金利上昇に懸念を示したのである。

<家計支出や企業による固定投資は増加し、住宅セクターは力強さを増しているが、住宅ローン金利は一段と上昇(have risen further)し、財政政策が経済成長の制約となっている。>
<過去数カ月に金融状況の引き締めが見受けられ、継続すれば経済および雇用市場の改善ペースを減速させる可能性がある。>(FOMC声明文)

<ここ数カ月見られる金融状況の急激な引き締まりが成長を鈍化させる恐れがあることが懸念される。状況がさらにひっ迫すれば、懸念はさらに高まるだろう。>(バーナンキ議長記者会見での発言)



ひとつだけ、確信的に言えることがある。当分の間、米国金利は上昇しないだろう。少なくとも5月以降続いてきた一本調子の上昇ピッチには歯止めがかかるだろう。グラフ1からはFF金利先物が織り込む利上げの時期を読み解くことができる。現在のFF金利誘導の上限が0.25%であるから、0.50%に達している限月までには1回の利上げがあると市場が見ているという意味になる。その時期は9月上旬には2014年末まで前倒しになった。背景にはサマーズ氏の名前がFRB議長候補に急浮上したこともあるが、市場は相当先走ったようだ。その後、サマーズ氏が議長候補を辞退し、そしてトドメが昨日のテーパリング見送り。市場が織り込む利上げ時期は2015年半ばへと逆戻りした。

それはバーナンキ議長が初めてテーパリングの可能性を示唆した5月下旬に市場が織り込んでいたタイミングである。政策金利に対する市場のビューがその時点まで戻ったのなら、長期金利もその水準まで戻ってもおかしくはない。米国10年債利回りは6月から7月にかけてもみ合っていた2.5〜2.6%程度のレンジに落ち着くのではないか(グラフ2ご参照)。



ドル円相場と日本株式市場

米国金利が上がらない、あるいは上昇ピッチが一旦鈍るということになればドルの上値は重そうだ。ましてやテーパリングの開始も白紙に戻っている。米国の財政問題に絡む議論も再び迷走するおそれもある。ドルの買い材料は少なくなった。

では、円高になるかといえば、それもないだろう。ドルが買えないからといっても、円を買う材料もまたない。ドル円は当面、もみ合いが続くだろう。

そもそもテーパリング開始を織り込んでドルが買われていたのならば、梯子を外された反動で円高ドル安が進むのも頷けるのだが、そういったことはなかったではないか。ドル円はずっと三角保ち合いを放れていない。ならば、テーパリング見送りでドル売りというのにも限界があろう。

ポイントは、円安という最大の支援材料なくしても日本株が上値を追えるかという点だろう。グラフ3に示すまでもなく、日経平均とドル円は同じような動きをしてきたが、ここからは為替放れとなる可能性もある。材料は「アベノミクス3本の矢」再加速と業績修正である。



消費税増税については、すっかり外堀を埋められた格好で、10月初めにも増税実施が決断されそうだ。僕は増税に反対だが、株式市場は美人投票。「増税が見送りとなれば日本の信任低下で外国人の失望売りを浴びかねない」という説を多くの人が信奉しているなら、増税を決めてしまえば少なくともその観点から売られることはない。そして、増税とセットで議論されている景気の腰折れを防ぐ景気対策パッケージが出てくれば市場はサポートされるだろう。

本来、消費増税の悪影響を法人税減税で緩和しようというのも、理屈が成り立たないと僕は思っているが、この際、それも良しとしよう。美人投票、美人投票。

成長戦略の一環として法人税減税、設備投資促進策、戦略特区構想、規制緩和の促進などが強く打ち出されるだろう。可能性は高くないものの、10月末の日銀展望レポートのタイミングで追加緩和があるかもしれない。来年の大型補正は不可避という方向で議論は進んでいる。つまり、「アベノミクス3本の矢」再び、である。

そしてドル円相場が現状でステイして動かなくても、業績の上方修正余地はじゅうぶんである。5月高値の信用期日が明ける11月半ばまでは需給が悪いが、信用期日明け頃からは4-9月期決算の上方修正を受けて日本株は上昇基調が鮮明になるだろう。

14番目の月

話を量的緩和の縮小に戻そう。今回のFOMCでテーパリング開始は見送られたが、では完全に白紙撤回されたのかといえば、そんなわけではない。一度、そういう関係になってしまうと、もう「ただの友達」には戻れないのと同じである。

要は、FOMCのたびに同じことが繰り返されるだけである。市場は一度、予行演習を済ませている。次回以降はずっとクレバーに立ち振る舞うだろう。そしてフライング(見切り発車)はしないだろう。テーパリング開始が新たなるラリーの号砲となる。それを機に、株も一段と買われ、そこから米国金利の上昇に弾みがつき、金は売られ、そしてドル高となるだろう。

なんのことはない。お楽しみが先送りされただけのことである。

今夜は中秋の名月。十五夜の満月である。
ユーミンは歌う。満月になればあとは欠けていくだけ。だから14番目の月が好きだと。

マーケットは今まさに14番目の月である。欠けていくのは、まだ先だ。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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