不合理に思える政策がまかり通る背景とは?

 では、なぜこのような不合理が起こり得るのでしょうか。もともと国土資源局が中国の子会社と国有土地使用権払い下げ契約を締結して国有土地使用権の設定を認めてくれるのは、そうすることに合理的な理由があるからです。その主な理由は、中国の子会社が中国政府である商務部、またはその地方出先機関である商務局の審査認可を得た外資プロジェクトを実施するのに、土地を必要とすることにあります。しかし、必要以上に広い国有土地使用権の払い下げを受けて、使用しないからといって投機的に第三者に売却して譲渡益を儲けることは、悪しき資本主義の典型的行為(土地転がし)として、中国経済が随分と資本主義化した現在ですら認められないのです。

 ところが、日本企業が中国の子会社を設立する場合、戦後の自社の成功物語を思い出し、経営者が土地制度の相違をよく調べずに明らかに誤った判断を下すことが1990〜2000年代初頭にかけて多くありました。ここでいう誤った判断とは、次のようなものです。

「わが社は戦後キャッシュフローが苦しいときにでも、創業者が無理をして隣地に広大な空き地を確保しておいたところ、その後バブル経済が終わるまでの間、右肩上がりに値段が上がり、それが銀行からお金を借りる際の担保にもなったし、後々には第2工場建設の礎にもなった。中国でもきっと今後日本と同じように高度経済成長期に入り、バブル経済がどこかで終焉するまで、土地の値段は上がり続ける。だから、日本と同じように、無理してでも広大な土地を確保しておけば、それが中国の子会社の発展の礎となるだろう」

 このような理由で、中国の子会社が第1工場では3万平方メートルの国有土地使用権しか要らないのに、第2工場を将来的に設立するという理由で無理やり6万平方メートルの国有土地使用権を確保する、といった事例が相次いだのです。

 しかし、6万平方メートルの国有土地使用権の払い下げ条件は、第1工場を完成するだけではなく、第2工場も完成することにあります。したがって、中国の子会社が市場動向などを理由として第2工場を建設しない場合、当初設定された払い下げ条件を満たさない違法があることを理由に、国土資源局が第三者に対する譲渡を認めないのです。国土資源局が認めなければ、不動産譲渡登記が完了せず、譲渡を受ける第三者は物権法に基づく物権である不動産の権利を取得することができませんので、結局、譲渡できなくなります。

 この点について、「都市不動産管理法」は1994年に施行された当初から、不動産開発プロジェクトの場合、建設投資総額の25%以上を投資すれば、不動産の譲渡が可能であると規定しています。このため私は以前、中国の子会社は25%以上の投資をすれば、第三者に不動産を譲渡できるものだと思い込んでいました。ところが、全国各地の国土資源局と何回協議を重ねても、必ず「製造業である中国の子会社が実施する外資プロジェクトは、不動産開発プロジェクトではないので、審査認可を得た外資プロジェクト全部を完了するまで譲渡を認めることはできない」という回答が返ってきました。そこで、前述したとおりの説明が、この法律に関して実態に即した解釈であると理解するに至ったのです。