「(気を取り直して)で、では、これが我が社の自信作だ、というのを見せていただけますでしょうか」

「そうですね……たとえばこれなんか、何かに使えないかなとは思ってはいるのですが……」

 そう言って犬飼さんが次に見せてくれたのは、茶色っぽくて細長いトレー。もともとあったおしぼり受けの金型を利用して作ったものだそう。

「なんか、柔らかかいですね。心なしか、しっとりしているような……」

「そちらは木を混ぜています」

「ところで、こういう植物を混ぜて作ると何かいいことってあるんでしょうか?」

「いや、特にないと思います」

 (ないんかい!)

「強いて言えば、普通なら捨ててしまう材料を再利用できる、ということくらいで」

 いやいや、そこ重要でしょう、とツッコミたくなるものの、先ほどの紙を混ぜたお箸も高くて売れずに製造中止になったと聞けば、現実はそう甘くはないことを知る。

 関東合成工業では、必要とあれば金型の設計から取り組む意欲は満々である。しかし、それがなかなか難しい。

「『金』の『型』と書くくらいですから、高いんですね」

「おいくらくらいかかるものですか?」

「少なくとも、数十万円から数百万円はするでしょう」

 ご存知の方も多いとは思うが、日本のプラスチック産業を支えていたのは何を隠そう、この金型の精度である。

「製品をよく見ていただくと、必ずどこかに樹脂の流し込み口があります。触ると、ぽこっとへこんでいたりするからわかると思うんですが……」

「ほんとだ、へこんでます」

「そこからどういう風に樹脂が流れて行ったのか、を考えると繊維がどう走っているのか、がわかる。縦には割れやすいけど、横には絶対に割れない、とか、我々が見るとすぐに気づきます」

「なるほど、木の年輪を読むように繊維の流れが読める訳ですね。ひょっとして、普通に買い物をしていても流し込み口はどこか、とか気になっちゃいますか?」

「なりますねー」

 この夏は、サンダルからのぞく女性の足元も気になったそう。ある業者さんから、「付け爪」の開発を依頼されていたからである。

「いやあ、見たらけっこういるんですね。つけてらっしゃる方が」

 フェチはフェチでもプラスチックフェチなので、どうか誤解なきように。