「保険会社を儲けさせるために、この制度を運用しているのか」

 7月25日に行われた厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で、莫大な剰余金を抱える産科医療補償制度について、出席した委員が次々と激しい批判を口にした。

 産科医療補償制度は、分娩中の事故などで子どもが脳性麻痺などの障害をおった場合に速やかに補償することで、産科クリニックや助産院などの負担を軽減することを目的としたものだ。

 だが、民間の損保会社が管理する剰余金や保険料の運用益など、不透明なお金の流れに各方面から疑問の声が上がっており、今年5月には産科医や妊産婦が国民生活センターに掛け金返還を求める和解の仲介申請を行うまでに至っている。

 産科医療補償制度は、どのようなお金の流れになっているのだろうか。

医療事故訴訟の頻発が
産科医不足に拍車をかけた

 産科医療補償制度設立のきっかけとなった象徴的な出来事が、「福島県立大野病院産科医逮捕事件」だ。

 2004年12月、福島県・大熊町にあった福島県立大野病院で出産した女性が帝王切開の手術中に死亡し、執刀した産婦人科の医師が業務上過失致死・医師法違反の容疑で2006年2月に逮捕された。

 この事件は、2008年8月に福島地方裁判所で行われた一審で、執刀医に無罪が言い渡され、検察も控訴を断念し地裁判決が確定した。

 しかし、人の命を救うために行った行為によって医師が逮捕された事実は、医療界に大きな波紋を投げかけ、産婦人科医不足に拍車をかけることになった。