人間は、脳あってこその存在。人の行動、思考、感情、性格にみられる違いの数々は、すべて脳が決めているのです。「心の個性」それはすなわち「脳の個性」。私たちが日常で何気なく行なっていることはもちろん、「なぜだろう?」と思っている行動の中にも「脳」が大きく絡んでいることがあります。「脳」を知ることは、あなたの中にある「なぜ?」を知ることにもなるのです。この連載では、脳のトリビアともいえる意外な脳の姿を紹介していきます。

記憶力のいい・悪いは
どこで決まる?

 人間の記憶の容量に限界はあるのでしょうか。これはむずかしい問題です。

 記憶にもいくつかのタイプがあって、ごく短い時間だけ覚えている記憶を「短期記憶」、2~3日前など最近の記憶を「近時記憶」、数年前以上など、かなり前の記憶を「遠隔記憶」といい、時間によって記憶のタイプは異なります。

 たとえば、短期記憶は不必要であれば1分以内に消え去っていきます。第15回で紹介したワーキングメモリーも短期記憶に似ていて、会話や計算のために必要なことを記憶しますが、それも用事が済めば消える運命にあります。

 となると、近時記憶や遠隔記憶がどれだけ蓄えられるか、それが問題となるわけです。記憶を蓄えるのはシナプスだという、いわゆる「シナプス説」によれば、シナプスの数が多く、それが柔軟であれば、記憶の容量は大きいということになるのでしょうか。しかし、その容量の限界がどれだけなのかとなると、それはまだ解明されていません。

記憶の消去こそが
容量を増やす

 記憶力のいい人であれば、それだけ容量が大きく、記憶力の劣る人は容量が小さいのか、それははっきりしません。それどころか、容量が記憶力の決め手ともいえないのです。なぜなら、どれだけ効率的に情報をプールし、利用できているかが重要だからです。