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消費増税でゼロ成長に停滞〜5兆円対策の真相〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


9月20日付レポート「消費増税とアベノミクスの転換」において、日本経済新聞が報じた消費増税に伴う経済政策プランを解説した。消費増税を巡る水面下での政策策定に携わっていた霞が関が情報ソースの記事だったのだろう。10月1日に安倍首相が消費増税を決断し、この記事を含め大手新聞各社が報じていた観測記事に沿った結果となった。

そして、霞ヶ関に通じている日経などが報じたプランどおりに、消費増税と経済対策が動き始めている。しかし、経済への配慮として5兆円規模の対策を安倍首相は言及したが、先のレポートで指摘したとおり、これらは景気失速回避に十分と思えない。5兆円は大規模にみえるが、増税が始まる2014年度において、これらの大部分は、「追加の」景気刺激とはならない可能性が高いからである。

具体的には、10月1日の閣議決議で具体策と挙げられた減税などの措置は、復興特別法人税廃止0.90兆円、投資減税など0.89兆円、家計への給付等0.71兆円、の合計約2.5兆円である(表参照)。消費増税に伴う家計への負担約8兆円を補うのは僅か約0.7兆円で、2014年度の個人消費の落ち込みは避けられない。




また、企業向けの投資減税などが0.89兆円と試算されている。具体的には、先端設備投資を行った企業への大規模な減価償却容認などや、給与を増やす企業への減税である。ただ、試算通りの「減税」が実現するかどうかは、企業が設備投資を拡大させるかあるいは給与を引き上げるのかに依存する。今後の景気減速懸念から、企業の行動が変われば「試算通り」には減税は実現しない。景気を支える効果はかなり小さくなる。

また、12月に結論がでる復興特別法人税廃止は、実現すればほぼ試算通りの減税にはなる。ただ、設備投資が大きく増えるには、企業のデフレ期待が払しょくされる必要がある。企業がこの減税分を設備投資にまわさなければ総需要を増やす効果は表れず、脱デフレの途上にある現状で、この景気刺激効果はかなり不確実である。

むしろ、これまでの金融緩和強化で脱デフレが進みつつあるが、今回政府が早々に脱デフレの動きを止める政策に踏み出すので、先行きが不確実になるため設備投資を控える企業は増えるだろう。一方、8兆円という大規模な消費増税による家計の負担増は、確実に個人消費を減らす。

また、閣議決定において金額は明示されていないが、「新たな経済対策」が掲げられている。日経などの報道を踏まえると、公共投資2兆円、復興事業1.3兆円などが想定されている。ただ、これらの「対策」が、2014年度にどの程度「追加支出」となるのか不明である。そもそも「震災復興事業」として、改めて追加で支出されるメニューは今更どれだけあるのか?実際には、執行が遅れているプランの再計上分が多いだろう。

また、アベノミクス発動と同時に2013年1月の緊急経済対策として、復興防災対策として国の支出3.8兆円が計上された。これが2013年春先から動いているが、これを超える復興防災支出(公共投資)が、2014年度の増税ショックを和らげるのに必要となる。しかし現在想定されている3兆円程度の公共投資であれば、2014年度の公共投資は13年度を下回る可能性すらある(なお筆者は、建設業の人手不足が伝えられる中で追加公共投資の弊害は極めて大きく、「増税+公共投資拡大」は本末転倒の愚策と考えているが、2014年度の経済成長への影響という観点で考えた)。

2014年度には8兆円という大規模な負担増と、それが個人消費を押し下げるショックが起きる。それを和らげ脱デフレの動きを止めないために、減税効果が確かな法人税や所得税の引き下げを3〜4兆円規模で行う必要があった。しかし、実際には唯一の頼みの綱だった、法人税率引き下げについてすら「2015年度からの検討」となっている。

9月20日のレポートで想定していた通り、大規模な緊縮財政政策が始まるので、2014年の成長率の落ち込みは相当大きくなる。2014年度はゼロ成長と、東日本大震災の後と同程度の停滞を予想する。企業利益も減益に転じる状況を想定するのが無難だろう。

なお、筆者がここまでに日本経済に対して慎重な見通しを掲げるのは、東日本大震災直後のレポートで(2011年3月25日)で、「マイナス成長となり景気後退が訪れる」と予想して以来である。実際には、11年度はマイナス成長こそ回避したがほぼゼロ成長と停滞、企業利益も減益となった。金融市場では、民主党政権による政策の不作為で、円高・株安が続いた。

もちろん、日本銀行の体制変更でFRBと同様の世界標準の金融緩和策が日本でも実現するだろうし、また米国を中心に世界経済が安定しているなど、2011年より明るい面もある。これらを背景に日本経済の減速が限定的にとどまるかもしれないが、このシナリオを前提に投資するには、それを裏付けるしっかりとした材料が必要ではないか。

アベノミクスは、「多数の国民が恩恵をうける」脱デフレを最優先させる政策で、それを実現させたから多くの国民の支持を得た。今回の増税先行をきっかけに、アベノミクスが「公的部門など既得権益に配慮する」だけの政策となれば、安倍政権への投資家の信認はガタ落ちしかねない。しばらくはこの点がリスクになることを、筆者は最も警戒している。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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