日本の10年国債利回りは、FRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和縮小を見送り、米国の長期金利が低下したことを受け、一気に0.6%台へと低下した。しかし、日米長期金利は両国の金融政策の相違からデカップリングが続いている。

 唯一、日本の銀行の資金調達原価、つまり債券投資の損益分岐点と目される0.8%近辺においてのみ、両者の連動性が高まる動きが見られていた。日本の債券市場では、損益分岐点の0.8%を中心とした、10年債利回りの0.7~0.9%程度のレンジ相場が定着し、利回りが0.7%に近づけば米国債との連動も薄れるはずだった。

 今回、0.7%割れの水準で、米国債に連動して日本国債の利回りが低下した背景には、国内要因をよりどころとした投資家のレンジ感の変化があると考えられる。投資家心理を揺さぶったのは、円安基調が止まった為替市場と、それに伴う物価見通しの下方修正だろう。

 7月の全国消費者物価上昇率(除く生鮮、総合)は前年比プラス0.7%となったが、昨今の物価上昇に寄与したのは円安を主因とする食料・エネルギーの価格上昇だ。今年前半の勢いで円安が進行すれば、今後、物価上昇は続き、日本銀行の掲げる物価目標達成が近づく可能性も高くなっただろう。

 しかし、ドル円は5月をピークに、100円をやや下回るレベルでのレンジ取引が続いている。為替レートの前年比に注目すれば、2014年以降はアベノミクス期待で円安が進み始めた13年初のレートとの対比となり、昨今の物価上昇に寄与した食料・エネルギーおよび一部の財の物価の前年比上昇率は伸び悩むと予想される。