健康保険の高額療養費は、病気やケガをして医療機関の窓口で自己負担したお金が一定額を超えると払い戻しを受けられるというもの。この制度があるおかげで、日本では際限なく医療費がかかるという心配はない。

 たとえば、70歳未満で月収53万円未満の人なら、たとえ医療費が100万円にかかっても自己負担は9万円程度。300万円かかっても自己負担は11万円程度でよい。

 高額療養費の自己負担限度額は、これまで所得に応じて3段階だった。しかし、今年8月に発表された社会保障制度改革国民会議の「能力に応じた負担を求めるべき」という提言を受け、現在、厚生労働省では大幅に見直すことが検討されている。

 この見直しは、私たちの暮らしのどのような影響を与えるか。70歳未満の人の医療費で見ていこう。

見直しの有力案は5区分
引き上げ幅は最大7割!?

 高額療養費が創設されたのは、福祉元年と言われた1973年(昭和48年)。当時、会社員の健康保険の窓口負担は「初診時200円」などの定額制だったので、会社員本人の負担は非常に低く抑えられていた。

 しかし、扶養家族は3割の定率制で、療養が長引いたりすると自己負担が高額になることもあった。その負担を軽減するために、まずは会社員の扶養家族の1ヵ月の自己負担の上限を3万円にすることで高額療養費はスタートし、やがて自営業者などが加入する国民健康保険にも広がっていった。

 1984年(昭和59年)、会社員の健康保険も1割の定率制が導入され、会社員本人にも高額療養費制度が適用される。そして、低所得層の負担を軽減するために、一般的な所得の人は5万1000円、住民税非課税世帯などは3万円と2つの所得区分が作られた。

 その後、自己負担限度額はじわじわと引き上げられてきたが、大きな変更があったのは2000年(平成12年)。収入に応じて医療費を負担してもらうという考えを強めるために、それまでの2区分から3区分に変更して、収入の高い人の「上位所得者」を創設。国民に医療費のコスト意識を喚起するという名目で、医療費に連動して1%の負担も付け加えられることになった。