タイ 2013年10月15日

【バンコクの忘れられない日】
後ろからでもいい。殺される前に殺せ[第1回]

バンコクの日本語情報誌『DACO』の発行人、沼舘幹夫さんは在タイ25年。その沼館さんがバンコクで出くわした「忘れられない1日」を回想します。今から25年前、沼館さんが命を狙われることになった事件とは……。

 日本で勤めていた会社が、通信社からニュースを仕入れ、バンコクに住む日本人向けに新聞を発行・配達するという新規事業を始めた。自動車会社に1年間出向して「飯の種」を探すという任務を負っていた私は、これを機に本社に呼び戻され、その事業の立ち上げ要員としてバンコク出張を命じられた。27歳。1988年のことだ。

 45日間の出張の予定で新聞事業をスタートさせたが、ことは思うようにはかどらなかった。出張期間は延び、半年が経ったころのこと……。

ひとりの定期購読者も逃したくない……

 現地で雇った新聞配達員のなかに、ソムサックというイサーン(タイの東北地方)出身の男がいた。当時35歳ぐらいで、みんなから「ピー・ソムサック(ソムサック兄貴)」と呼ばれて親しまれていた。

 ある夜、朝刊のレイアウトをしていると、事務所のスタッフが「日本人から電話で問い合わせがあった」と言う。ところが、電話を受けた者の不手際で、相手が「ワタナベ」という苗字であることと住所しか控えておらず、電話番号がわからない。新聞の定期購読希望者に違いない。ワタナベさんが気が変わらないうちに連絡して、今日のうちに成約しなければ……と心があせった。この時期、たったひとりの定期購読者でも逃したくはなかった。

 すぐに、電話番号案内サービスでワタナベさんと住所で調べたが該当はなし。ようやく該当する住所のコンドミニアムの管理事務所の電話番号は探しあてた。しかし勤務時間を過ぎていたためか、電話をしても誰も出ない。青白い蛍光灯の下で途方に暮れていた私とタイ人スタッフのところに、事務所の5階に寝泊まりしているピー・ソムサックが水浴びを終えて上半身裸で下りてきた。

バンコク市内の渋滞は年々ひどい状況に……(本文とは関係ありません)

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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