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10月10日 18時0分
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見えない円高要因〜アベノミクスへの疑念〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています


2012年末に始まったアベノミクス相場において、ドル円は70円台の超円高局面から大幅な円安が進み、5月半ばにはドル円は103円台まで円安が進んだ。3月26日レポートで紹介したが、これは「8年に1度」しか起こらない、歴史的な円安局面だった。

歴史的な円安局面が昨年末から今年前半まで起きたのだから、年後半に同様の円安が続くのはさすがに難しい(先のレポートでもそう述べた)ので、年央に一旦円安の流れが止まるのは、ある程度予想できた。なので、5月10日レポートで、「勢いだけで」1ドル100円を超えて円安が進んだ時には、円安に警戒を示した。当時は、ドル円の主たる変動要因が、日銀(日本)からFRB(米国)に移るという大局観を持っていた(5月8日レポート参照)。

それ以降ドル円は、FRBの政策やそれを決める経済指標を材料に動いた。ただ、FRBの政策への期待を反映する米10年金利が上昇したが、それは為替市場で明確なドル高要因にならなかった。実際には、景気指標や株式市場の変動が「短期的な材料」となり、ドル円相場は方向が定まらず、動いたのが実情である。9月中旬からは、FRBの量的緩和縮小(テーパリング)の先送りや債務上限問題への懸念を材料に、やや円高地合にある(グラフ参照)。


夏場からドル円相場が、米国側の要因で日々動いているのは、ほぼ筆者の想定通りである。一方、筆者は最近ドル円が100円を下回るレンジで定着しつつあることを受けて、ドル円相場で、日本側の要因が再び顕在化し始めていることを懸念している。冒頭で述べたが、2012年末からのドル円の大きな動きは、アベノミクスという日本側の要因がもたらした。5月からの円高は、先に述べたとおり米国要因が材料になっているが、日本側の要因も底流で影響し続けているのではないかという疑念である。

具体的には、5月半ばまでの円安をもたらした、脱デフレを目指すアベノミクスへの市場の認識が、変化しているかもしれないということだ。6月6日レポートでは、「成長戦略に対する意気込み」を示した安倍首相の講演で、日本株が下落したことを紹介した。この講演をどう評価するか見方は様々だが、アベノミクスが、「脱デフレによる経済正常化」という本丸から、「成長戦略」というデフレ下では効果が期待できない政策が軸になりつつある、と筆者は不安を感じた。

もっとも、5月半ばの日本株急落は、それまでの日本株市場の過熱感が強まりすぎた反動があらわれた面もあった。だから、筆者はこの時、アベノミクスの揺らぎが「株安と円高の主因とは」言い切れないため、あくまで株価の調整と円高をもたらした一要因にとどまると判断した。

ただ、ドル円のレンジが最近、円高方向にシフトしつつあるが、5月に不安を感じた「脱デフレを最優先に掲げたアベノミクス」が揺らぎ、それが円高要因となっている可能性を無視できなくなってきた。早期の脱デフレ期待が後退すれば、高まっていたインフレ期待が低下する。そして、デフレ期待の再浮上が、2012年までのように為替市場で円高要因となり始めているかもしれない、ということだ。

10月4日レポートで指摘したが、8兆円という大規模な消費増税に対して、それとセットになった「経済対策」は5兆円と数字はそれなりだが、追加での景気押し上げ効果はかなり限られる。だから、財政政策はかなりの緊縮政策であり、個人消費が失速するので2014年度に脱デフレの動きは一旦止まる可能性が高い。

この安倍政権の判断が、市場のインフレ期待を更に低下させ、それが為替市場で「見えない円高要因」になる、ということだ。もちろん、インフレ率(同じことだが通貨価値)に対して、金融政策が決定的に影響を及ぼす。だから、日本銀行が脱デフレを目指す世界標準の金融緩和強化策を続ければ、2012年までのような円高はまず起こらない。しかも、米FRBは、今後も量的金融緩和縮小を検討するので、両者の金融政策のスタンスの差を踏まえればドル高円安という構図が想定される。

ただ仮に、FRBがテーパリング開始を迷い続ける(実際に来月は雇用統計が発表されない可能性がある)一方で、日本銀行が2014年4月からの経済の落ち込みを軽微に想定し、追加金融緩和に動かなければどうなるか?2013年5月に揺らぎ始めた、脱デフレを目指すアベノミクスへの疑念が更に強まり、「思わぬ円高」が起こりうる。

目先は、米国の債務上限問題をめぐる報道で、ドル円市場は一喜一憂するだろう。ただその後は、あくまでリスクシナリオだが、こうした展開が起こり得ることを頭の片隅に置いておくべきだろう。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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(マネックス証券)


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