TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の行方に、黄信号がともっている。

 10月8日に開催されたTPP交渉の首脳会合は、妥結に向けての大きな節目とされていた。参加国が目指すとする年内妥結のためには、ここで大筋合意にこぎ着ける必要があったためだ。

 だが、8日に発表された声明では、「年内の完了を目標として、残された課題の解決を進めることに合意」と盛り込むにとどまった。

 参加国間、特に米国と新興国の溝が埋まらず、 せっかくの首脳会合も「大きな政治決断をする状況にまで至らなかった」(菅原淳一・みずほ総合研究所上席主任研究員)。米国の財政をめぐる混乱で、オバマ大統領が欠席を余儀なくされことも響いた。

 今後は、12月のWTO会合を利用して閣僚会合の場を設け、それまでの間も引き続き首席交渉官会合など協議が行われるものと目されている。だが、関税、知的財産権、政府調達、国有企業の扱いなど、多くの難題が積み残されたままで、現実問題として年内妥結は極めて難しい。

「2国間でのものを含めると毎週のように協議を行っており、他の交渉と真剣さが違う。残る問題も折り合えないことはない」(木村福成・慶応義塾大学教授)と楽観視する向きもある。“最終妥結”はほぼ不可能だが、関税率の具体的な取り決めなど、若干数の項目のみを残しての“実質的な妥結”ならばあり得なくはない。

 しかしそれでも、交渉テーマ21分野のうち半分しか詰め切れていない現状では、ハードルはあまりに高い。

 特に障壁となりそうなのが、政府調達と、国営企業の優遇撤廃を求める「競争政策」だ。いずれも先進国側が新興国側に開放と是正を求めているものだが、既存の経済構造と政策の根幹に変革を迫ることになるだけに、抵抗は強い。

 そもそも年内妥結は、来年秋の中間選挙に向け、実績をつくりたい米オバマ政権が強く望んでいるものであり、新興国側には、こだわりはない。