表層的な理解では戦えない

 しかし、残念ながら、こうしたフレームワークについては、言葉はバズワード的に知っていても、表層的な理解に留まっており、その肝の部分まで理解できていない人が多いというのが実情である。さらに言えば、個別のフレームワークのことは何となく知っていても、それらの関係が有機的・体系的に頭の中でつながっていないため、さまざまな側面から精査した途端に粗が見えてくるという例も散見される。

 例えば、基本戦略の1つである「差別化戦略」をとってみても、「競合と異なるポジションをとること」「競合との違いを打ち出すこと」といった理解に留まる人が少なくない。

 もちろんこれらも差別化戦略の一面の真実ではあるが、この程度の理解で戦略を練ろうとしても、効果的な差別化につながることはないだろう。あるいは、瞬間的には差別性を打ち出すことができても、すぐに競合に真似をされて「ラットレース」に陥るのが関の山である。

 差別化は単に競合との違いを打ち出すことではなく、いくつかの満たすべき要件がある。

 まずは顧客にとってその違いに意味があり、それに対価を支払ってもよいと感じてもらえることが必須だ。競合と違う箇所があっても、顧客が「だから何なの?」と感じるようでは意味がない。

 第二に、そうした顧客層が潜在層も含め一定規模いること。差別化には手間暇がかかる。そのコストに見合うだけの潜在市場規模があるかをリサーチなどを通じて事前に理解しておくことが必要だ。

 第三に、模倣が容易ではなく、何かしらの理由からその差別性を比較的長期間維持できることも求められる。例としては、バリューチェーンの鍵となる箇所に暗黙知が埋め込まれている、希少資源を独占している、有名なブランドストーリーがある、強い特許を持っている、競合が真似したくてもできない組織的事情がある等である。

 そして最後に、その差別性を効果的に顧客に伝える必要がある。これはマーケティングに属する話かもしれないが、情報過多の時代にいかに顧客の「頭の占有率(マインドシェア)」を高めるかは非常に大きな問題なのだ。

 これらをすべて実現するためには、1時間程度、「頭の体操」的なミーティングをして複数のポジショニングマップ案を書くだけではまったく不十分である。自社の強み、弱み、独自性をさまざまな角度から理解することはもちろん、ゼロベースで既存の枠組みを取り払い業界の誰も考えたことのない競争軸を打ち出すなどの頭の柔軟性も問われてくる。

 さて、こうして差別化戦略のポイントを見てくると、差別化の典型的な落とし穴として、「競合しか見ず、肝心な顧客のことを忘れてしまいがち」ということがあることも再確認できるだろう。そう、差別化とは、まさに「3C」を満遍なく理解し、かつ徹底的に思考投入して初めて実現するのである。

 繰り返しだが、個々のフレームワークをバズワードとして頭の引き出しに放り込むのではなく、それらを有機的・体系的に紐づけながら理解することが必須なのである。