医療従事者以外に対する新型インフルエンザ・ワクチンの接種が11月半ばにかけて、ようやく各地で開始される運びとなった。

 だが、あまりにも確保できた絶対量が少なく、地域格差があるうえ、患者と接するリスクが大きいのに「優先接種」の対象にならなかった薬局勤務の薬剤師や、発症例が多いのに「優先接種」を受けられない小中高校生を持つ親などの不満の声は絶えない。

 この期に及んでも、輸入ワクチンのリスクの大きさを執拗に喧伝するなど、厚生労働省が従来の逃げ腰行政から脱却できる兆しが見えてこないのだ。

 幸いなことに、今回、流行している新型インフルエンザは重症化するリスクが小さい弱毒性のもの。しかし、決して油断はできない。専門家の間では、近い将来、確実に、強毒性の鳥インフルエンザが発生するとみられているからだ。そのリスクを想定すると、とてもではないが、今の厚生労働行政には、国民の命を委ねられそうにない。

優先接種対象の認定や、
地域格差により厚労省へ不満も

 茨城県と千葉県は11月2日、首都圏の1都6県の先頭を切って、医療従事者以外の新型インフルエンザ・ワクチンの優先接種を開始した。対象は、茨城県が妊婦と基礎疾患を有する人(最優先グループ)、千葉県が入院中の妊婦や基礎疾患のある人となっている。さらに、東京都が11月9日に妊婦、基礎疾患を有する1歳から小学校3年生の幼児、基礎疾患を有する入院患者などの重症者を対象に優先接種を開始するという。

 だが、ここまでの厚生労働省の対応を不満とする声が広く各地に燻っている。

 例えば、薬剤師はその代表例だ。読売新聞の報道によると、火種になったのは、優先接種の対象となる「医療従事者」について、同省は「新型患者の治療に直接従事する者」と規定した。そして、薬剤師など「その他の医療従事者」への接種に関しては、各医療機関独自の判断に委ねたため、例外的に病院勤務の薬剤師が優先接種の対象になるケースがあったものの、すべての薬局勤務の薬剤師は一般扱いになってしまったのである。このため、日本薬剤師会が9月に、同省に対し、再考を促す要望書を提出したものの、状況は改善せず、強い不満が残っているという。

 その一方で、地域格差の存在も見逃せない。ワクチンの接種には、1回目が3600円、同じ医療機関で受ける場合、2回目が2550円必要。この費用を免除されるのは、通常、生活保護世帯と市町村民税の非課税世帯だけに限定されているが、各地の市町村の中に、それ以外の優先接種対象者を想定して、独自の支援策を講じるところが出ているという。