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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

日本の製造業にイノベーションが
起こらない〝厄介な〟理由

ニュースの深層で学ぶ技術経営戦略入門
東京理科大学専門職大学院MOT(技術経営専攻)

【LECTURE Theater 2013 第3回】 2013年10月24日
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オープン・イノベーションに潜む
4つの問題

 オープン・イノベーションが期待通りの成果を上げないのは、その実行過程にさまざまな問題が存在しているからです。ここでは、〈1〉アイデアや技術の移転、〈2〉仕事の線引きと競争力、〈3〉インターフェースの設計、〈4〉収益の分配、の4点の問題を指摘しておきましょう。

〈1〉アイデアや技術の移転の問題
 これは、オープン・イノベーションでは互いに持ち寄り移転するものが、「モノ」ではなく「情報」であることによる難しさです。情報には、同時かつ多重に利用できる特性があります。連携するかしないかがはっきりしない段階で、相手から情報の開示を求められて応じてしまうと、正式な取引が始まる前に情報は移転してしまいます。
 また情報の「粘着性」から生じる問題もあります。つまり、移転される情報の種類、使い手の属性、情報量などによって、移転に合意しても多額のコストがかかるのです。特許は公開されていても、それを実際に製造するにはノウハウが必要であるように、移転される情報に形式知化されていないノウハウや技術があれば完全に移転をするには多くの時間とコストがかかります。
 技術者を派遣して半年間ほど指導させれば移転が完了するというものではありません。それで移転が完了するぐらいの技術であれば、そもそもオープン・イノベーションのテーマには浮上してきません。

〈2〉仕事の線引きと競争力の問題
 外部に任せる仕事と自社でやる仕事のインターフェース部分を、どう構築するかは、自社の競争優位の源泉は何か、そして商品化もしくは事業化における競争力はどこにあるのかについての注意深い自覚が必要です。そうでなければ、仕事の線引きは、自社の長期的な競争力を脅かすものになるからです。これは台湾などのEMS企業が、単なる下請け企業から設計提案を行うまでに成長している事例からも理解できるでしょう。
 さらには、外部に任せた仕事を評価する能力を、どのように維持または向上させるかという問題もあります。

〈3〉インターフェースの設計の問題
 自社と他社の仕事のインターフェースをどのように設計するか。オープン化の議論には、製品やシステム全体を構成要素に分解し(モジュール化)、さらに構成要素間のインターフェースをルール化して共有する(標準化)ことが不可欠です。これによりインターフェースの調整コストが削減され、それぞれの構成要素の技術革新に力を注げるからです。
 しかし技術革新が進んでいくと、ある時点で製品そのものやシステム全体を大きく変革しなければならない必要に迫られます。それによって水平分業型で部品を外部から調達してきた企業は苦境に立たされ、逆に垂直統合型を志向していた企業が優位に立ちます。これが、「モジュラリティの罠」と呼ばれる現象です。罠にはまらないためには、製品やシステムの特性、発展経路、市場環境などの将来予測を俯瞰した上で、インターフェースを設計する必要があるのです。

〈4〉収益の分配
 オープン・イノベーションで得られた収益をどのように分配すべきかという問題について、チェスブロウは、最初にアイデアを思いついた側、あるいはアイデアを活用できる最も重要なビジネスモデルを考案した者が優先的な権利を得るべきだと説きました。外部から獲得した知的財産をうまく利用できるビジネスモデルをより早く構築することが、最終的な利益につながるというのです。

 つまり、オープン・イノベーションの場に「参画する」と利益が得られると考えるのは早計で、オープン・イノベーションを「企画する」ことこそが利益を得るための要件であり、チェスブロウの概念を競争優位に転化する真髄なのです。

 

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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