家族のライフスタイルが変われば、求める住まいの形も変わってくる。日本の住宅の性能は、年々進化し続けているが、ハードの追求に加え、ソフト面の機能にも注目して選びたい。「夫婦で仕事、育児、暮らしをシェアする」ことを提案している、ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏に、これからの住まい選びについて聞いた。

こむろ・よしえ
1975年、東京都生まれ。資生堂を経て、2006年ワーク・ライフバランスを設立。育児休業者の職場復帰支援プログラム「armo(アルモ)」を開発し、400社以上に導入。900社以上に、残業を減らし、売り上げを上げる働き方改革コンサルティングを行う。10年から働き方見直しサポートサイト「小室淑恵のWLB塾」も運営。介護職員初任者研修の資格を持ち、11年から企業へ「介護と仕事の両立ナビ」導入を進めている。主著に『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人生と仕事の段取り術』(PHPビジネス新書)など。

仕事と暮らしを
両立させやすい家

 夫は外へ勤めに行き、妻は育児をしながら家庭を守る――昭和型のサラリーマン家庭像が、大きく変わりつつある。

 働きながら子育てする女性が増えてきた。一方、介護に直面して働き盛りで仕事との両立に悩む人もいる。家庭により直面する問題はさまざまだ。

 住む人の変化に合わせ、求められる住まい像も変わりつつある。一戸建てにするか、マンションに住むか、都心か郊外かという選択肢に加え、「ライフスタイルに合うか」が、今、問われ始めているといえよう。

 そこで参考にしたいのが「ワーク・ライフ・バランス」という考え方。ライフ(プライベート)を充実させ、そこでの体験から新しい情報や価値観をインプットすることでワーク(仕事)の効率や成果が上がり、そのことでまたライフが潤っていく――働き方を変えて、好循環を生み出そうとするものだ。

 これを実践し、誰もが働きやすい社会をつくるために、小室淑恵氏がコンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」を設立したのは2006年のこと。背景には、日本が直面する少子高齢化への危機感があった。

「日本では出産後、女性の就業率が急激に低下します。育児は夫婦での協力が不可欠ですが、それまで残業や休日出勤を続けてきた夫がなかなか働き方を変えられないと、妻は孤独な育児でストレスを高め、職場でも育児休暇や短時間勤務で肩身の狭い思いをし、仕事を辞めざるを得なくなる状況があります」

 そうなると、住宅ローンも子どもの養育費も妻の生活費も、夫一人で稼がなくてはならない。経済的事情に妻のストレスが加わり、「2人目、3人目はとても産めない」となっているのが、日本の少子化の原因であると、小室氏は指摘する。

 介護問題についても、団塊の世代が75歳を迎える約10年後には、会社でもある程度の地位にいる男性たちまで、かなりの確率で親の介護に直面するだろうと予測されている。

「男性は時間に制約を持ちながら働くことに大きな抵抗があり、突然退職してしまうケースも多いです。最近、大手企業の役員が突然退職する例がありますが、その理由が介護であるケースも珍しくありません。介護と仕事の両立セミナーのニーズも高まっています」

 少子高齢化の進展による日本の労働力低下に向けては、政府も重い腰を上げ、女性のパワーを活用しようと動きだしたが、まずは自分たちが働き方を変えなければ事態は動かない。そこで登場するのが、ワーク・ライフ・バランスというわけだ。

 同時に、小室氏が提唱しているのが、最初に「ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい家を選ぶ」ということである。