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アマデウスたち

阿部和重
現実を組み直し虚構を描く

週刊ダイヤモンド編集部
【第41回】 2008年8月8日
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阿部和重
写真 加藤昌人

 代表作となった長編『シンセミア』には、殺人、暴力、盗撮、ロリコン、コカインといった毒が散りばめられている。時間と距離を縦横無尽にワープしながら物語は展開し、3世代、80人もの強烈なキャラクターが入れ替わり、悲劇を仕掛ける側、仕掛けられる側に回りながら、いっせいに破局へと突き進んでいく。時に、金属が擦れ合うような、腐臭がまとわり付くような不快感を読む者に与えるにもかかわらず、睡眠時間すら惜しいと思い直させてしまう。

 小説の舞台となった山形県東根市神町に生まれた。実家のパン屋の向かいは本屋。その隣は映画館だった。映画好きの父に連れられるうちに、自分も虜になった。映画学校に進み、シナリオのおもしろさを知った。膨大な数を書いた。その過程で「過剰な自意識を切り捨てることができた」。「視覚的な思考傾向」はここで顕在化し、『シンセミア』で見せた多次元的、多層的な構想力の礎となったのだろう。

 フィクションでありながら、ノンフィクション的な要素が混じり、現代社会に歴史の反復性を想起させるのが作品のもう一つの特徴だ。「小説は組み直された現実である」。神町には戦後、進駐軍が駐屯していたことがあった。混沌の時代につくり上げられた無法秩序は、『シンセミア』が描く2000年夏にも隠然と残る。そして現在に引き継がれている。神町クロニクルの第2部となる『ピストルズ』が「群像」で連載されている。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)

阿部和重(Kazushige Abe)●作家。1968年生まれ。1994年『アメリカの夜』で群像新人文学賞、1999年『無情の世界』で野間文芸新人賞、2004年『シンセミア』で伊藤整文学賞、毎日出版文化賞(文学・芸術部門)、2005年『グランド・フィナーレ』で芥川賞を受賞。その他著書に『ニッポニアニッポン』など。

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