経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第42回】 2013年10月29日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【熊坂賢次氏×武田隆氏対談】(前編)
つながり方は「血縁」でも「恋愛」でもなく…?

『桐島、部活やめるってよ』が浮き彫りにする現代社会のネットワーク

直木賞作家・朝井リョウのデビュー小説『桐島、部活やめるってよ』。映画化もされ大ヒットを記録したこの作品を、あなたはご覧になっただろうか?
この作品には、たとえば1960年代に人気を博した「若大将シリーズ」の加山雄三のような、一見してそれとわかる絶対的スターは登場しない、と指摘するのは慶應義塾大学でライフスタイル論と社会調査を専門にする熊坂賢次教授だ。今という時代を切り取る鍵は、どうやらこのヒット作品の中にも隠されているようだ。

『桐島、部活やめるってよ』からわかる、情報社会の構造

熊坂賢次(くまさか・けんじ)
1947年1月28日生まれ、東京都出身。現在、慶應義塾大学環境情報学部教授(シニア有期)。専門はライフスタイル論と社会調査。1984年「素顔なんて、ないの」というゲームブック形式の調査で新しい方法論に目覚め、2000年にはiMapというインターネット調査を実施、つねに社会調査に革新的で社会実験的な手法を導入する。その後、柔らかい構造化手法を開発し、インターネット上のビッグデータから社会文化現象を計量的に解釈しようと、若手の研究者と一緒になって、必死に楽しく模索中。

熊坂 武田さん、映画『桐島、部活やめるってよ』はご覧になりましたか?

武田 はい。先生、いきなりですね(笑)。

熊坂 最近、研究室の学生とあの映画を分析したんですよ。僕は、エンタテインメントのいい作品は、いつも時代の先端を表現するものだと思っているので。

武田 熊坂先生は、岡崎京子さんの漫画『pink』をテーマに、消費社会を浮き彫りにする評論も書かれていますよね。登場人物の関係から、漫画をもちろん、それを通した社会が見える。あれには感動しました。

熊坂 ありがとうございます。嬉しいですね。

 それと同じように『桐島、部活やめるってよ』は、情報社会を知るのにかなりいい素材だと考えています。本作は、桐島というバレーボール部のキャプテンである男の子が、突然部活をやめたことから始まる物語です。桐島の姿は映画には出てこなくて、桐島の周りの人間がさまざまな思惑をもって行動する。主な登場人物は15人。研究室の学生に、この15人を構造的にプロットしてもらいました。すると、学生はこの話を、桐島を頂点とするスクールカーストとしてまとめようとするんですよね。

武田 スクールカースト。中学や高校で自然に発生する「人気」の度合いを表す序列ですね。

熊坂 そうです。でも、よく考えたら違うんですよ。ディテールを見ればわかります。たしかに桐島は県選抜にも選ばれるバレー部のスターとして扱われていますが、ポジションはリベロなんです。

武田 桐島がカーストの頂点だとしたら、エースアタッカーのほうが物語としてはしっくりきますね。

熊坂 そう。彼がエースアタッカーなのであれば、今までの青春ドラマと一緒です。でも、桐島はリベロで守備専門。ということは、背だってそんなに大きくないはず。せいぜい175センチというところでしょうか。体格だって、下半身ががっしりしているだろうから、スマートじゃない。そうすると、顔がものすごい美男子っていうのも……なんだか考えにくい(笑)。

武田 でも、彼女はすごく美人ですよね。

熊坂 だから、彼もすごくイケメンで背が高いように思えるんだけど、おそらく実際は違う。地味なリベロである桐島がスターとして扱われているところに、この物語の構造的緊張が隠されているんです。そしてこの構造的緊張を契機に、その物語は103分の中で崩れていきます。

武田 主人公である映画部の前田という男子が、ある女子と何かが始まりそうになるシーンがありますが……。

熊坂 彼は映画オタクで、一見下に見られていますが、彼はやりたいことが明確であるがゆえに、実は強い。個別の関係を見れば、スクールカースト映画ではないことがわかるんです。昔の青春映画のほうが、スクールカーストははっきりしていましたよ。若大将シリーズでは、加山雄三が大学の運動部のエースで、田中邦衛が絶対勝てないライバル。これは毎回変わらない。構造は明確でした。

武田 たしかにそうですね。ぱっと見で誰が主役なのか、一番かっこよくて強い役は誰なのかがわかります。

熊坂 でも今は、1人ひとりがみんな小さくなったけど、プチプチとした個性を持っているから、その個々のつながりの中から時代を見なければいけない。それがこの映画のディテールを読み解くことでわかります。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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