タイ 2013年10月29日

【バンコクの忘れられない日】
後ろからでもいい。殺される前に殺せ[第2回]

バンコクの日本語情報誌『DACO』の発行人、沼舘幹夫さんは在タイ25年。その沼館さんがバンコクで出くわした「忘れられない1日」を回想します。今から25年前、沼館さんが命を狙われることになった事件とは……。

【第1回】「愛すべき新聞配達員ピー・ソムサック」はこちら

 ある日の午前中、業務全般の問題点をあぶり出し、その解決策を事務スタッフと話し合っていた。

 終盤から、朝刊を配達し終え、ひと休みした配達員も参加した。ピー・ソムサックを含む8名の配達員に何気ない気持ちで、配送にかかるガソリン代を抑える案はないか聞いてみた。

 ピー・ソムサックが提案した。
「バイクのガソリンは、配達員が各自で立て替えて払って後で精算しているけど、会社が近くの給油所と契約をすればいい」

 なるほど。会社が一括で給油所に払えば割安になるかもしれない。配達員も毎日ガソリン代を立て替える必要がないし、と私はその案を即座に採用した。

配達員たちはガソリン代を水増し請求していた!

 その日、午後になって、ピー・ソムサックが配達員のひとり、ティワに殴られる騒ぎがあった。

 腹部をしたたかにやられたらしい。ティワは午前中のピー・ソムサックの会社側に立った提案が許せなかったのだ。というのも、ティワと仲間の配達員は毎日、ガソリン代を水増しして会社に請求していたのだ。

 事務所の5階に暮らすピー・ソムサックを見舞った。傍らには彼の弟分のアピチェが思い詰めた顔でピー・ソムサックを看病していた。ピー・ソムサックは「夕刊の配達には出られるから心配いらない」と言った。

 水増し請求はどこの世界でもよく聞く話だ。今日のことは従業員同士のちょっとしたいざこざに過ぎない。今はおおごとにせず、冷却期間をおいてから解決策を考えることにしよう。

 休憩をとって、夕刊の配達が終わるころに事務所に戻ると、事務所の玄関の前に30人ぐらいの人垣ができていた。その中に、顔に包帯を巻いたティワもいた。

 事務所に入りドアを閉めると、アピチェが上気した顔で上階から降りて来た。アピチェは兄貴分のピー・ソムサックが腹を殴られたことが我慢ならず、ティワを叩きのめしたという。外の人垣は、やられたティワが仲間を連れてアピチェを獲りに来ていたのだ。

「アピチェ、絶対に外に出るな」
 私はアピチェにそう言い残し、再び外に出た。彼らにぐるりと囲まれた……。

現在のガソリン価格。普通車はリッターあたり36.18バーツ(約113円)。一般の会社が専属契約で割安にしてくれるような特別サービスはない【撮影/DACO編集部】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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