経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第43回】 2013年11月12日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【熊坂賢次氏×武田隆氏対談】(中編)
恋愛も情報も「所有」するのはナンセンス?
経済の原則をくつがえす新コミュニケーション論

インターネットに親しんでいる人ならば、ネットの世界の共通言語が「シェア」であるということに強く共感するだろう。
リアルな世界には、「所有」という概念が厳然として存在する。希少なモノは強者がすべて手にし、結果として富める者と貧しい者の格差が生まれる。一方、復元(コピー)にかかるコストが限りなく減少していくインターネットの世界では、良い情報は多くの人に共有され、さらに良いものへと変換されながら、無限に拡散していくのだ。
私たちにとってはまだまだ目新しいこの「シェアの世界」では、果たしてコミュニケーションのかたちはどう変化していくのだろうか?

声をあげると、誰かが助けてくれる。
インターネットは「探索と支援」で成り立つ

武田前回出てきた、フラットで多様性のある新しい社会のかたち「きょうだい関係」。インターネットは、まさにそういう関係性で成り立っていますよね。

熊坂賢次(くまさか・けんじ)
1947年1月28日生まれ、東京都出身。現在、慶應義塾大学環境情報学部教授(シニア有期)。専門はライフスタイル論と社会調査。1984年「素顔なんて、ないの」というゲームブック形式の調査で新しい方法論に目覚め、2000年にはiMapというインターネット調査を実施、つねに社会調査に革新的で社会実験的な手法を導入する。その後、柔らかい構造化手法を開発し、インターネット上のビッグデータから社会文化現象を計量的に解釈しようと、若手の研究者と一緒になって、必死に楽しく模索中。

熊坂 はい。今までは、常に発信者が受信者に対して情報を与える、発信と受信という関係でコミュニケーションの論理がつくられていました。それは、発信者のほうに希少な情報財が所有されている点で、発信者から受信者への権力論でもあった。しかし、インターネットはそれを根本から変えます。インターネットのコンセプトは、探索と支援です。

武田 「探索」は「検索」をイメージするとわかりやすいですが、「支援」というのは……?

熊坂 ひとつ例をあげましょう。僕は最近、イラストレータ(Adobe社の描画ソフト)で色を塗った三角形の図をつくりたいと思ったんです。でもやってみると、どうにもうまくいかない(笑)。そこで、「イラストレータ 三角形」などで調べたところ、どうやればいいのかすぐわかりました。正三角形をつくるにはとか、直角三角形をベースにすると、などあらゆる方法が出てくる。インターネットのすごさは、「知りたい、でもわからない、だから、誰か助けて」と声を上げると、誰かが支援してくれるところにあります。

武田 しかも、その説明を書いた人は熊坂先生に教えようと思って書いたわけではないんですよね。

熊坂 そこがネットワークにおけるコミュニケーションの重要なところです。情報を所有している人は、ただ公開しているだけなんですよね。その人に権力があって、「わからないなら、教えてやろう」と上から教えるわけではない。所有している人は別に偉くないんです。ここに、今までとは違う新しい社会のつくりかたのヒントが隠されています。

武田 今回、熊坂先生に「所有」の概念についても伺いたかったんです。先生は岡崎京子さんの漫画『pink』の批評の中で、貧しさと豊かさについて対比していらっしゃいますよね。ここで先生がおっしゃっている貧しさと豊かさというのは、どういったものなのでしょうか。

熊坂 簡単に言うと、貧しさは「よいものは少ない」ということから生まれます。希少性ですね。いいものが少ないと、強いやつがすべて持っていってしまう。そうすると、弱い人は「どうすればいいんだろう、悲しい、寂しい」となり、持っている人からもらうしかなくなる。これが貧しさです。豊かさというのは「よいものはたくさんある」ということです。そうなると、「1個くらいあげていいかな」と思いますよね。そして、あげたらどうなりますか?

武田 私の手元からはなくなります。

熊坂 はい。物の場合はそうなります。でもそれが、情報になるとどうでしょう。僕が今持っている情報を武田さんに話しても、僕の頭の中からなくなるわけではない。ネットワークでは、よい情報は多くの人に共有され、さらに良いものへと変換されていきます。情報は、無限に拡散していくんです。

武田 デジタルの世界では、インターネットの根源的な性格として、復元(コピー)にかかるコストが無限に減少するから、情報は無限に拡散していくわけですね。

熊坂 そう。コピーは所有という概念を無にします。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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