カナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルの2強が牛耳る中小型機市場。この市場を目がけ、日本のMRJを含めた新規参入が加速しようとしている。そこで、現在ほぼすべての有力プレーヤーにエンジンを供給しているメーカーが、プラット&ホイットニー(P&W)だ。世界三大航空機エンジン・メーカーの一角を成しており、今年から2016年にかけて、P&W製のエンジンを載せた中小型機が、続々と登場する。開発当事者に話を聞いた。

――先の9月16日、カナダのボンバルディアは、開発中の「Cシリーズ」(100~145席)の初飛行テストに成功しました。機体に搭載する新型エンジンの開発責任者として、どのような思いでテストに臨みましたか。

 私たち関係者にとっては、とても重要な月曜日でした。

米プラット&ホイットニーPW1000Gシリーズ開発担当<br />ヴァイスプレジデント アンドリュー・タナー <br />絶えず、事業機会を探っているが<br />今は"計画通りの実行"を重視するアンドリュー・タナー/1961年、モントリオール生まれ。84年、マギル大学を卒業後、エンジニアとしてカナダ・プラット&ホイットニーに入社。約25年間のカナダ勤務を経て、2009年に米国本社に呼ばれる。翌10年4月に、PW1000Gシリーズ開発担当ヴァイスプレジンデントに就任。現在、三菱航空機のMRJ向けエンジン、ボンバルディア(Cシリーズ)向けエンジンの開発責任者を務める。休日には、幼い子どもとスキーを楽しむ。
Photo by Shinichi Yokoyama

 初めて、新しい「ギアード・ターボファン・ピュアパワー・エンジン」だけで駆動したからです。それまで、テスト飛行では大型旅客機ボーイング747の機体を使って、五つ目のエンジン(PW1500G)を載せて試験していましたが、今回は新しい機体(試作機)と二つの新型エンジンだけで飛んだのです。

 約2時間30分のテスト飛行では、数多くの技術的な達成が確認できましたし、立ち会った人々から「エンジン音が静かだ」という声をいただきました。この点は、PW1000Gシリーズの特徴の一つでもあります。

――その一方で、三菱航空機のMRJ(70~96席)は、初飛行のスケジュールが3回延期されるなど、開発の遅れが目立ちます。当初の予定では、MRJの初飛行は2011年でしたので、本来はボンバルディアより先に飛ぶはずでした。そのような事態を、どうご覧になっていますか。

 とてもハードな質問です(苦笑)。そもそも、新しい航空機の開発プログラムというものは、さまざまな要因で計画の進行が遅れることがあります。確かにMRJは、何回かスケジュールが変更されています。ですが、私が2週間前に機体の構造部位を組み立てている三菱重工業飛島工場(愛知県海部郡)で実際に見てきたところでは、MRJの開発は着実に進行しています。しかも、エンジニアの目で見て、「前に動いている」という実感を得られました。

 MRJには、ボンバルディアのエンジンと同じシリーズのPW1200Gが載ります。三菱航空機は、世界で最も早く私たちのギアード・ターボファン・ピュアパワー・エンジンを選んでくれました。P&Wとしては、そのことに大変満足していますし、喜んでいます。今回は、たまたまボンバルディアのほうが先に飛んだというにすぎません。