「最初から問題なく子育てができるお母さんなんて、そういません。
 今までよく頑張ってきましたね。お嬢さんがお母さんの気持ちをわかるときもきっとあるんじゃないでしょうか」

 そう私が言うと、その母親はあふれ出すように涙を流し、「私は本当に悪い母親で、娘に申し訳ない」と震える声で言った。

「娘を叩いていると、その手が自分のものなのか、私の母の手なのか、もうろうとしてわからなくなってしまうんです。
 私の中にはまだ小さかった頃の自分がいて、その自分がまだ母に叩かれているような怖い気分になるというか……。
 私の母は、今は娘の祖母ですが、孫娘に『ちゃんと勉強しなくちゃね』と言い聞かせている場面などを見ると、まるで30年前に戻ったみたいに自分と娘が重なって見えるんです。ああ、あのときの母と私だと。
 だからそんな母を見ると、私はいつも無性に聞いてみたくなるんです。
『どうして私を叩いたの?私のことを愛しているからだったんでしょ?』と。
 でも、どんな言葉が返ってくるか怖くて、質問はできません」

 この母は、娘を叩く手が自分なのか自分の母のものなのか、もうろうとしてわからなくなる、と表現した。

 母と娘の関係の「連鎖」は、このような混同、混乱の中に生じているものである。

 被害者と加害者が一体となり、自分がどちら側にいるのかも判然としなくなる。

 子どもの頃から澱のようにため込んできた怒りや不安、不信感がよみがえって、こうした混乱を引き起こすのだ。