以前にこんなことがありました。

 H社は従業員約20名の町工場でしたが、親会社に売上の大半を依存しており、「これではまずい」と社長自身が新規開拓を始めました。

 取引先のツテを頼り、ようやくある大企業の担当者との面談にこぎつけましたが、「取引先はいっぱいあるから、困ってないけどね」「ウチは価格だけだよ、本当に勝負できるの?」と、非常に高圧的な態度を取られたそうです。それで何回も見積りを取らされた挙げ句、「おたくは高いから全然ダメだよ!」と、結局取引に至ることはありませんでした。

 その後、H社には私がコンサルティングに入り、インターネットを中心としたマーケティングを進め、定期的に技術セミナーも開催するようになりました。そうした取り組みもあって、おかげさまで大企業の新規開拓で具体的な成果が出てきました。

 そうした中、H社が開催する技術セミナーに、あのときの大企業が参加してきたのです。前回とは違う担当者でした。その担当者はセミナー内容にいたく感動し、「ぜひ仕事を出すから1度来てほしい」と言われました。

 H社の社長は再びその大企業を訪問したのですが、やはり見積りをしても価格が合いません。そこでH社の社長から「申し訳ありませんが、当社では受けられません」とお断りしたところ、その大企業の担当者は「そんなこと言わずにぜひお願いしますよ!」と、なんと上司の課長を連れてH社を訪問してきたのです。

 そこまでされて、断るわけにもいきません。打ち合わせを繰り返し、スペックを落とすことで価格を合わせ、H社はその大企業と取引をすることにしました。

 いかがでしょうか?こちらから売り込むのと、相手から引き合いを発生させて対応するのでは、相手の態度に雲泥の差が出るのです。

「価値観」が同じ顧客と
付き合おう

 もう1つ大切なのは、「価値観」が同じ顧客と付き合うことです。

 先ほどの例で言えば、最初にH社の社長に対応した大企業の担当者は「価格が安ければどこでもいいよ!」という価値観の担当者でした。一方、技術セミナーに来てくれた同じ大企業の担当者は、H社に「価値」を見いだしてくれたから「ぜひ取引したい!」となったわけです。