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10月30日 18時0分
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海外投資家のスタンス 米国出張報告 PART1 - 広木隆「ストラテジーレポート」

先週、米国に出張し、年金基金、大手運用会社、ヘッジファンドなどの機関投資家と面談した。以下はその要旨である。

アベノミクスに対する評価

ネットアウトしてポジティブな評価であった。「ネットアウトして」というのは、良い面、悪い面、相殺して、ということである。アベノミクスの捉え方としては、日本国内で一般的とされている見方と大差ないように思われた。すなわち、

1. 長らく日本を苦しめてきたデフレ脱却を目指すという方向性、およびその施策は正しい
2. しかし、成長戦略については踏み込み不足で、失望するところも少なくない というものである。

「アベノミクス」を好意的に捉えてはいるが、だからと言って過度な期待を全面に表しているものではない。淡々と見ているという感じであった。彼らのスタンスとしては、次の一手を待っているという印象を受けた。デフレ脱却についていえば、いつ日銀が追加緩和に踏み切るか、そのタイミングを見定めようとしている。そしてデフレ脱却が単に消費者物価指数の上昇にとどまらず、本当に賃金上昇に結び付くのかを注視している。成長戦略については、法人税減税についてはあまり話題にのぼらず、むしろ日本の労働力をどう確保するかという観点からの議論が多かった。移民をなぜ受け入れないか、とか女性の活用という点は評価できるとか、そういう議論が多かった。面談した米国の投資家は一様に、日本の人口動態に関心を寄せているということがそうした話題が多かった背景である。この点についてはPART2で触れたい。

アベノミクス3番目の矢である「成長戦略」については、誰ひとりとして「Growth Strategy」などという逐語訳は使わず、全員が「Structural Reform(構造改革)」と言っていた。これについての評価は「成長戦略については踏み込み不足で、失望するところも少なくない」と前述したが、表面的にそう感じているところから、本質的な部分を深く理解している投資家まで捉え方に差があるように思えた。

あるヘッジファンドの投資家は、アベノミクスの成長戦略を日本の財政問題と絡めて合理的に論じていた。彼の説明はこうである。

<長引くデフレ不況のせいで、日本では名目GDP成長率が長期国債の利回りを下回る状態が趨勢として続いてきた。その意味するところは、利払い負担を賄う経済成長が得られず、日本の借金が雪だるま式に膨らんでいるということだ。もう限界である。国としてはインフレにもっていくしかない。インフレにして借金の重圧を緩和するのである。但し、このような財政状態で国債ファイナンスとも受け止められる量的緩和を続ければ、円も国債も暴落してしまう(このあたりの論調はよく聞かれるものと大差ない)。当たり前だが、インフレで借金を軽くするにも限界がある。結局、名目GDPを上げようと思えば、潜在成長率を高めるしかなく、それには幅広い分野で構造改革を推し進める必要がある。>


日本は財政破たんする、などと突拍子もないことを言い出す輩が日本人にも少なくない一方、米国人のなかにもしっかりと本質を理解している投資家がいることは心強い。成長戦略が大事と猫も杓子もいうが、「何のための」成長戦略であるかを踏まえているひとはそれほど多くない。短期的な景気の底上げを図る財政出動も必要、デフレからインフレへの転換を促すには大胆な金融緩和も必要、しかしそれらはサステイナブル(持続可能)ではなく、長期的な経済成長のためには構造改革が必要。アベノミクスの3本の矢を時間軸と目的別にしっかりと理解している投資家が米国にいる。

それもそのはず、彼らは来日すると 日銀副総裁の中曽宏氏をはじめ日銀審議員メンバーや内閣官房参与の本田悦朗氏などと面談し、直接説明を受けている。そればかりではない。ニューヨークには財務省、経産省の官僚が分厚いプレゼン資料を抱えて頻繁に訪れるというのだ。米国にいても、いやむしろ、世界の金融経済の中心であるニューヨークにいるからこそ、日本にいるよりかえって日本の政策に関する情報がよく集まるといえるだろう。
投資対象

もちろんファンドによって、戦略はばらばらであり彼らの投資の傾向を一概に述べることはできないが、印象的だったのは内需銘柄を好む投資家が多かったことである。日本の消費関連、インターネット関連、金融、不動産などへの関心が高かった。銘柄を教えてくれた先では、新生銀行(8303)、カカクコム(2371)、KDDI(9433)などの名前が挙がった。外需銘柄にも投資していないことはないが、今回会ったヘッジファンドではトヨタ(7203)、日本電産(6594)などごく一部の銘柄への投資に限られた。

外需にいかないのは、単に戦略上の観点というファンドもあった。そのヘッジファンドは、日本、韓国、中国の企業を投資対象としているが、外需銘柄、例えばトヨタを投資対象にすると、グローバル比較が必要になる - つまり、ゼネラルモーターズ(GM)やフォード(F)、クライスラーの分析も必要になって限られた時間とスタッフで運用するには効率が悪いから、という理由である。

また、為替という極めて分析しにくいものの影響を受ける点も外需企業を避ける理由だった。為替という不透明要因が入る分だけ、コンビクション・レベル(確信度)が下がるというのである。

このアベノミクス相場が始まった時から僕の主張は、
1. デフレ脱却=円高の終焉=外需(特に自動車セクター)
2. インフレ関連=不動産
3. 実質金利の低下=おカネが動く=銀行などの金融株
というのが3大推奨セクターであった。

米国の投資家に僕の推奨を尋ねられたので、上記のように答えると全員が「Make sense」と言ってくれた。英語は世界でもっとも簡単な言語であるが、翻訳するとなると結構難しい。この場合の「Make sense」の訳は、「なるほど」というものから「ふ〜ん」というものまで様々である。まあ、それでも外需を除いては納得してもらえたようである。特に、どの投資家とも合意ができたのは、金融株が有望であるという点である。リーマンショック以降の5年間、量的緩和QE1〜3の過程で、米国の金融株がどのようなパフォーマンスを演じてきたかを米国の投資家は自分たちのその目でまざまざと見てきたのだ。直感的にも経験的にも「Agreed(そうだな)」と言うはずであった。

リスクシナリオ

面談した投資家は、日本株のポジションを持っている(日本株に投資している)人たちであるが、中には現在日本のポジションはゼロだというところが1社あった。その理由として再度円高に振れるリスクを見ているということであった。

彼らのロジックはこうだ。
<日銀は4月に異次元緩和を行った際、戦力の逐次投入はしないと言った。次に追加緩和に動くのは1年後となる来年4月だろう。一方、米国では量的緩和縮小のタイミングが不透明になっている。現在、コンセンサスとなっているのは、早くてもイエレン氏が次期FRB議長に就任した後の来年3月のFOMCで決定されるというものである。そうすると、来春までは日米の金融政策に方向感が出ないだろう。その間に、なんらかのきっかけで「リスクオフ」に傾けば、徐々に上値が重い格好になっているドル円の保ち合いが下に放れても不思議はない。その場合、1ドル90円程度まで円高が再度進行する可能性もある。>

しかし、このシナリオが示現したら、それは日銀の背中を押すことになる。日銀は追加緩和を躊躇わないだろう。すでに日銀は大量に国債を購入している。新発国債のマーケットは日銀の一手買いに近い。これ以上、購入を増やすのは、それこそ「財政ファイナンス」との誹りを招く恐れがある。よって追加緩和ではETFの購入枠を大きく増額するのではないか。そんな観測もそのファンドは抱いていた。日本のポジションが今はゼロであるというのは、日本株に弱気なのではなく、単に押し目買いのチャンスを待っているということなのだ。再度円高に振れて株安になれば、それこそデフレ脱却にとって悪材料との口実で日銀が追加緩和に動くだろうというのが彼らの読みだ。

僕が「バーナンキ・プット(下げに備える保険のプット・オプション)ならぬ『クロダ・プット』だね」と口にすると、そのヘッジファンドのマネージャーはこう聞いてきた。
「クロダ・プットという言葉は日本で流行っているのか?」
僕はこう答えた。
「ごく一部では使われているよ。でも、まだそんなにポピュラーな言葉ではない」
そう聞くと、彼はうれしそうに微笑んだ。

(PART2に続く)


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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(マネックス証券)


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