「目から鱗」のような発想法と、それをチーム上で引き出すツールなどのノウハウを紹介した『全体最適の問題解決入門』の発刊に寄せて、金井壽宏・神戸大学大学院教授が本書を解説する。

全体最適の問題解決入門
岸良 裕司著 ダイヤモンド社刊 
1680円(税別)

 工夫をすれば、発想を変えれば、もっといい仕事をチームで成し遂げることができる。そのはずだと思って、日々、現場で工夫しておられるリーダーたちへのエールが必要だ。
 
 それも、ただ応援するだけでなく、実効性のあるメソッドを伴う書籍でないと、精神論になってしまう。力のある実践家は、だれも屁理屈を好まないはずだ。プロジェクト・マネジメントを含む仕事のあり方そのものを変革するため内省する実践的契機も必要だろう。

 「目から鱗」のような発想法と、それをチーム上で引き出すツールとその適用例が、『全体最適の問題解決入門』において、いろいろなノウハウめいたことも含め惜しげもなく提示されている。
 
 著者の岸良裕司氏を慕うリーダーたちが多様な分野で多数生まれてきたのも、いつも全力投球で、自分がマスターしつつある最新成果までを、セミナー、講演の場で、そして、著書のなかで、オープンにされてきたおかげだろう。

 品質管理の会合で初対面のとき、本書のもとになっているCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント)を普及させる会合に参加させてもらったとき、神戸大学の研究者やMBA院生との交流機会を何度か実施したとき、いつも岸良氏の情熱と実践的なプレゼンに圧倒されたものだ。

 また、CCPMの基礎理論であるTOC(制約の理論)の伝道師として、『ザ・ゴール』以降の連作で名高いエリヤフ・ゴールドラット博士が最も信頼する日本人として、本書を世に問う著者に言及してきたことを、皆さんとともに、わたし自身も喜びたい。

 経営をよくするには、理詰めで考えて、システム思考をして、タスクの流れをしっかり考える必要がある。思えば、経営学はいつも、成り行き管理や勘・コツだけに頼らない、ソリッドに信頼できる体系を求めてきた。
 
 他方で、タスク中心のシステムづくりだけではヒトが動いてくれないと洞察するたびに、タスクの軸とあわせて、人間、感情、やる気、人間的配慮、チームスピリットというヒトの軸にも、研究努力を注力してきた。
 
 しかし、100年の経営学の歴史を概観すると、いつも、タスクやシステムの極に振れるか、ヒトと人間関係の極に振れるか、大きく両極に揺れる振り子のような無細工な有様だった。

 岸良氏は、CCPMの会合で、事例のストーリーを仲間から聞くたびに、そこに感動があり、関係があり、コミュニティがあり、感情も大きく動いていることに何度も気づかれたそうだ。そこから、プロジェクト・マネジメントのなかにも、システマティックな方法の精緻化という側面と、人びとのやる気や熱意の向上という側面が不可分に存在することを深く洞察された。