ほんのちょっとのサービス精神が、奇跡を生んだりする

ほんのちょっとのサービス精神が、奇跡を生んだりする<br />【佐々木圭一×鈴木おさむ】(後編)

佐々木 その意味では、伝え方にはいろんなやり方があるんですよね。僕自身、「文字を通して、どうやって伝えるか」ということをずっと考えて、17年間やってきています。
 例えば企画書についても、「山のように積まれる企画書の中で、僕の企画書を見つけてもらうのにどうすればいいか」を必死で考えて、ポストイットを立てることを見つけた。言葉についても、どうしてここに点を打つのか、もうとにかく誰よりも集中して考え続けてきました。

 一般の人からすれば、そこまでする必要はないんですが、17年積み重ねてきたものの、上澄みの部分で、誰でも使えてカンタンにできてしまうものは、知っておくと意外に役に立つのではないかと思っています。

鈴木 企画書といえば、面白い話があるんです。もう20年近く前なんですが、一社提供の番組があったんです。深夜番組なんですが、スポンサーがどんどん口出ししてくる。なかなか企画が通らない、難しい番組枠でした。
 スタッフみんなで新しい番組の分厚い企画書を作ったんですが、最後に総合演出の人がアイディアを出して、トップページに、出演者の顔写真を貼っていったんです。今でこそ珍しいことではありませんが、当時は革命的なことでした。

 まわりで見ていて、思わず「おぉ」と声が上がりましたから。ビジュアルのインパクトはそれくらい強かった。では、どうして顔写真を貼ったりしたのかというと、出演者が若いタレントだったこともあって、スポンサーがなかなかゴーサインを出してくれなかったからだったんです。ところが、この企画書を出して、しばらくしてすぐにゴーサインが出た。

 スポンサーの担当者が、家に企画書を持って帰っていたらしいんです。それでテーブルの上に置いておいたら、写真を見た担当者の子どもが、「あ、このタレントは○○だ」と言って。
 それで決まったんですね。子どもが知っている、ということで、スポンサーの担当者の心が大きく動いた。もし、ビジュアルのない企画書だけだったら、子どもは見なかったでしょう。写真が貼ってあったことが、きっかけのボタンになったんです。

 嘘みたいな話なんですが、ほんのちょっとサービス精神が、奇跡を生んだりするんですよね。本当にこの企画を通したいと思ったら、どんなことでも考えるべきなんですよ。「もしかしたら、企画書を家に持って帰るかもしれない。テーブルに置いておいたら、家族が見るかもしれない」。そんな想像も、作戦のうちのひとつになるということです。

 できることは全部やる。気持ちがあれば、それができるんだと思う。そしてポストイットが折られていることひとつでも、僕はなんか、感じちゃうんです。