2013年11月5日、参議院において、生活保護法改正案・生活困窮者自立支援法案の審議が開始された。6月に廃案となったこれら2法案は、「衆参ねじれ」状態ではなくなった今国会で成立する可能性が高いと見られている。参議院では実際、どのように議論されているのだろうか? 本格的な審議が始まった7日、参院・厚生労働委員会で行われた質疑の内容を中心に紹介していきたい。

生活保護法改正案の
論点を整理する

 2013年11月5日、参議院において、生活保護法改正案・生活困窮者自立支援法案(以下「2法案」)の審議が開始された。2013年6月、いったん廃案となった2法案は、今国会での早期成立を目指して参院先議となっている。

 実質的な審議が開始されたのは11月7日だ。議論の内容を紹介する前に、生活保護法改正案に関する主な論点を整理しておこう。

・主に改正案に賛成する立場から

 不正受給の罰則強化

・主に改正案に反対する立場から

 申請手続きの厳格化
 扶養義務強化
 福祉事務所の調査権限強化
 生活保護基準(生活保護法改正案とは一応は無関係)

・賛成・反対と無関係、あるいは両者の立場から

 貧困の世代間連鎖に対する対策
 捕捉率の向上
 福祉事務所の体制強化
 生活保護指定医療機関の認定基準厳格化・有期化
 後発医薬品の使用促進
 就労指導の強化(生活困窮者自立支援法案とも関連)

「国民感情」に押し流されてしまう国会でよいのか <br />再び審議される生活保護法改正案への懸念米国・ニューヨーク市にて。19世紀に建造された高級ホテル。往時の豪奢な内装をそのままに、現在は困窮者向けアパートとして運用されている。困窮者にこそ「神」を見るキリスト教文化のもとでは、あからさまな嫉妬・羨望の対象とはならない。米国の「国民感情」の1つのあらわれ
Photo by Yoshiko MIwa

「あれっ?」と感じる方も少なくないのではないだろうか? 不正受給、あるいは扶養義務を果たしていないように見える親族に対する「国民感情」をテコとして、不正受給とも扶養義務とも関連の薄い数多くの論点が引きずられる形になっているのだ。不適切な医療機関への対応・後発医薬品の使用促進は、そもそも、なぜ生活保護法の中に含められなくてはならないのかが不明瞭すぎるのではないだろうか? 

 福祉論者といえども、不正受給を是とはしない。2012年4月、センセーショナルに行われた「高い収入を得ているタレントが親族の扶養義務を果たさず、困窮した親族に生活保護を利用させている」という報道も、多くの人々に「なんと不当な」というイメージを与え、生活保護を利用することに関するネガティブな感情を呼び起こすには充分だったであろう。それらの感情に引きずられる形で、生活保護法改正案は議論され続けている。しかも、議論とはいえ、感情論ではない議論は少ない。

 11月7日、何人もの議員が、1949年に施行された生活保護法(新法)が時代にそぐわなくなっている可能性と、抜本的改正の必要性を指摘した。生活保護制度に、改正されないまま長い時間が経ってしまったことによる多様な問題が含まれていることは事実であるし、抜本的改正も必要であろう。

 しかし、国民感情に引きずられる形で、実質的に充分な議論が行われないまま改正されてしまって良いのであろうか? 国の根幹や形を定めているに近い重要な制度が、充分な理解も冷静な議論もなされないままで動かされてしまっても良いのであろうか?