このときまず私が行ったのはダイナミックフレームワーキングの根幹となる作業、すなわち「バイアス崩し」のための「バイアスの視覚化」です。これは具体的には(また次回説明しますが)新コンセプトのアイデアをたくさん出して、抽象概念化および構造化していく作業です。この作業のなかで、私はひとつ重要なヒントとなるフレームワーク(図2)を見つけました。

図2 USBメモリのフレームワーク

 このダイアグラムの縦軸は「データの取り扱い体験がtangibleか否か」、一方、横軸は「データサイズが大きいか小さいか」。たとえば、フロッピーディスクでデータを渡すことは、「データを移す体験がtangibleでサイズが小さいデータ」という第2象限に入ります。メール添付によるデータ送受信は第3象限。

 ただ、当時はちょうどデジタルカメラやパワーポイントが普及して大容量化したデータがフロッピーディスクに入らなくなりつつありましたし、またインターネットや無線通信技術も進んでいました。従って業界の発想としては、「これからは大容量のデータをネットワーク経由で渡す時代になる」というもので、第4象限の「データを移す体験がintangibleでデータサイズが大きい」という方向がトレンドでした。実際に当時のプロジェクトメンバーでブレストしたアイデアも、全てがそこに集中していました。これこそが皆の陥っていたバイアス、いわゆる思い込みです。

 そこでバイアスと反する「データがtangibleでサイズが大きいもの」という第1象限にあえて注目した私の発想は「フラッシュメモリにUSBをつける」というものでした。この発想をクライアントに説明したときは、「えー、それはどうかな?」という反応でした。

 やはり、皆の頭の中には「これからはネットワーク経由」というバイアスがあるので、すぐには納得してくれなかったのです。しかし二日間かけてダイアグラムなどを見せながら論理的に説明するとクライアントはこのアイデアを納得してくれ、やがて「すごい!」ということになりました。これがUSBメモリ開発の1つ目の「バイアス崩し」でした。

テクノロジーのバイアスも崩せる

 こうしてUSBメモリの基本コンセプトができあがったのですが、ここで新たな問題があがりました。調べてみると、フラッシュメモリにUSBをつけた製品をシンガポールの会社が既に発売していること、しかしこれがほとんど普及していないことがわかったのです。ただし考えてみると普及していない理由としては単純で、この商品をUSBポートに差し込むと「ドライバーをインストールしてください」という面倒なメッセージが出て使いづらいことのようでした。