株式レポート
11月8日 18時0分
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異例の金融緩和〜デフレリスクに警戒するECB〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

筆者は今週フランクフルトとロンドンを訪れ、金融機関のリサーチャー、投資家、当局者などと主に欧州経済をテーマにミーティングを行っている。

欧州では、2012年半ばに債務問題に起因する混乱が収まり、南欧諸国の金利は低下した。緊縮財政の和らぎと世界経済回復が支えとなり、2013年4ー6月にGDPがプラスに転じるなど、極めて緩慢ながらも回復していた。こうした中で、欧州で危機は再燃せず、緩やかな回復が続き、金融政策も現状維持が続く、というのが先週までの市場のコンセンサスであった。

ただ、先週発表されたユーロ圏の10月消費者物価(CPI)が、予想外に下振れ雰囲気ががらりと変わる(グラフ参照)。消費者物価の伸びは2012年半ばから低下し、下げ止まらず遂にコアベース前年比で1%を下回った。米英の基準でみると、デフレリスクを警戒しなければいけない領域である。ECBの金融緩和期待が浮上し、先週まで為替市場で消去法的に買われていたユーロが調整していた。


欧州情勢の変化が注目される中で、今週筆者は話を聞く機会に恵まれ、当然ECBの政策について話題になった。ただ、利下げが決まる当日まで、今週ECBが利下げに踏み出すという予想は聞かれなかった。

中には、「CPI低下はVAT(付加価値税)引き上げの反動など一時的な要因で説明できる。足元の景気指標の改善をみれば、ECBが利下げに動く理由はなく、それは2014年になっても変わらない」という強気(過ぎる?)の見方を、ECBのお膝元であるフランクフルトで複数聞いた。

ドイツ経済が相対的に良い(悪くないだけだが)こともあり、ドイツ側の立場からの考えを耳にすることが、フランクフルトでは特に多い。なので、筆者の考えと相容れない議論が多く、違和感を抱くことが頻繁にある。例えば、「効果が小さい金融緩和(筆者はそう思わないけど)より、南欧諸国の財政改善や構造問題への対応が必要」という議論が展開される。こうした考えでECBが金融政策を運営するなら、「ECBの早期利下げシナリオ」も覆されるだろうか、と思っていた。

ただ実際には、昨日(11月7日)にロンドンでのミーティングの合間に、市場の予想を裏切る格好で、ドラギ総裁率いるECBは動いた。この意味について、まだ面談者とは議論できていない。

あくまで筆者の私見だが、ECBメンバーがインフレ低下やデフレリスクに対して相応の警戒を持っており、できるだけ早く利下げに動いた方が良い、と判断したのだろう。米FRBに近い考えで、ECBがデフレリスクに積極的に動いたということだ。ロイターの報道によれば「今回の決定について、バイトマン独連銀総裁など理事の4分の1が反対した」とのことで、ECBとしては異例の対応ということになるだろう。

また、為替市場でユーロ高が止まらないことが、デフレリスクを強めることにECBが警戒した面も強かっただろう。9月以降FRBの金融緩和継続観測でドル安が続いていたが、それに対抗する格好でECBが金融緩和を打ち出したということだ。このため、為替市場でユーロ安はしばらく続く可能性が高い。ドル安期待で高くなりすぎたユーロが適性水準に戻るだけで、ユーロ安が進む余地があるからだ。

ドラギ総裁は、会合後の記者会見で追加金融緩和の可能性に言及した。先進国のディスインフレが続く中で、米欧日の中央銀行が揃って金融緩和を強化する格好になる。金融緩和に最も消極的とされたECBの今回の決断をきっかけに、各地域の中央銀行による「金融緩和強化競争」の構図がより強まった。これは、株式などリスク資産にとっては追い風になる。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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