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デカップリング論-米国の影響を受けない世界経済安定はありえるか

真壁昭夫 [信州大学教授]
【第20回】 2008年3月4日
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 デカップリングとは、元々、何かと何かを離す、あるいは分離することを意味する。昨年、米国でサブプライム問題が表面化した後、経済専門家による、この言葉の使用頻度が眼に見えて上昇した。彼らが言うデカップリングの意味は、サブプライム問題によって減速傾向が顕在化しつつある米国経済と、その他の諸国、特に高い成長率を続ける新興国の経済が離れる=違った方向に進む、つまり、米国の経済が減速する一方、新興国の景気は堅調な展開を続けるという見方だ。

 新興国の経済が堅調であれば、世界経済も、それほど米国の影響を受けないで済むというのがデカップリング論の概要だ。デカップリングの反対が、リカップリング=動きが一緒になる、つまり、米国経済の減速で、世界経済全体の景気が悪化するとの考え方だ。

デカップリング論による
新興国への期待

 経済専門家が、よくデカップリングという言葉を使う背景には主に2つの理由がある。

 1つは、世界経済の中で新興国が占める割合が拡大したことだ。BRICsを初めとする新興国が高い経済成長を続け、それらの諸国の重要性が顕著に上昇したため、たとえ米国の景気が減速しても、それらの諸国が頑張っていれば、世界経済は堅調な展開を続けられるとの考え方に相応の説得力が出てきたのである。

 確かに、中国など新興国は、現在、工業化の初期段階を迎えており、まさに高度経済成長の過程を歩み始めた段階だ。そのため、道路や港湾施設などの社会インフラ整備や、企業の生産設備増強のために投資が積極的に行われている。それが、当該諸国の高い成長率を支える1つの要因になっている。それらの投資は、基本的に、海外の要因とは相関の少ない、いわゆる独立の投資といわれている。そのため、「新興国の経済は、米国経済の減速の影響をそれほど大きく受けないだろう」とのロジックが成り立つというのだ。

 もう1つは、米国経済が抱える構造的な問題だ。米国は世界最大の貿易赤字国であり、今まで、米国が他の国から気前よく沢山の品物を買ってくれたため、世界中の国は輸出を伸ばし、景気の上昇を享受することができた。ところが、貿易赤字は、言ってみれば国の借金であり、借金は雪だるまのように膨れ上がっている。米国は、これ以上多額の貿易赤字を垂れ流すことが難しい状況になりつつある。そこで、重要性を増した新興国が、米国に代わって、世界経済を牽引することが出来る、あるいは牽引して欲しいとの見方が出てきたのである。

世界の株式市場は
米国経済次第という現実

 頻繁に使われるデカップリング論だが、元々、このロジックには無理がある。というのは、経済のグローバル化が進んでいる現在、世界最大の経済大国である米国の影響が、その他の国に全く及ばないということは考えにくい。南海の孤島で、外部との接触を絶って生活するのであれば別だが、世界経済の一員として、日々の活動を行っている以上、米国で起きている景気減速の影響が及ばないことはありえない。

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真壁昭夫 [信州大学教授]

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。


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