発売開始から5年
「iPhoneショック」を振り返る

日の丸電機に欠けるソフトウェア重視の姿勢<br />アップル隆盛の“3つの核”から考える再生へのカギ<br />――林信行・ITジャーナリストはやし・のぶゆき
90年ごろからアップルについて経営や技術、ものづくりの姿勢など幅広く取材、執筆活動を続ける。スティーブ・ジョブズ復帰や初代iPod発表も直に取材。アップルやグーグルの企業動向の分析をはじめ、ブロードバンド化やブログ、SNSといった新トレンドにも早くから注目。この分野では第一人者。主な著書に『ジョブズは何も発明せずに生み出した』(青春出版社)、『iPhoneショック』(日経BP)、『スティーブ・ジョブズ』(アスキー)など多数。

 製品に込める配慮の奥深さ、品質への徹底的なこだわり――。

 日の丸電機各社にはまだまだ海外勢に負けない強みがいくらでもある。なのに、その力が成果として現れないのはなぜか。これは2007年に書籍「iPhoneショック」を執筆して以来、筆者が追求してきたテーマだ。

 同書では当時はまだ米国専用だったiPhoneがいずれ日本でも発売されると警鐘をならし、その前に日の丸電機各社は組織を見直し、過去のビジネスモデルから頭を切り替え、次の時代のグランドデザインを描くべきだと訴えた。

 それから5年強、家電業界、特に携帯電話業界は大きく様変わりした。先日は常に対立してきたNTTドコモもついにiPhoneを扱うようになり大きな節目を迎えた感がある。

 そんな今だからこそ、日本でiPhone発売開始からの5年間を振り返り、日の丸家電の失敗の理由を分析し、次の大勝負に備えたい。

 筆者は「iPhoneショック」の出版以降、さまざまな企業や業界団体を回り数百回の講演やワークショップを行なってきた。その度に受講者の方々と交流しながら、問題の本質へのヒントをもらい続けてきた。

 一方、2011年秋、いくつかのスティーブ・ジョブズ追悼書籍を書き始めたことで両者が交差し、今の日の丸電機各社で何が問題なのかの輪郭が浮き彫りになってきた。

機能の多さよりも
素性の良さを重視

 今でこそ成功し時価総額世界一位のアップルだが、ジョブズが復帰した1996年末は経営難で潰れかかっていた。この頃のアップルは組織も製品ラインアップも肥大化しており、今の日の丸電機と重なるところが多い。

 再びアップルの経営権を握ったジョブズは一体何をしたのか。その一挙一動をとりあげてもいいが、表層だけ真似をしても、もしかしたらまぐれで、にわかな改善はできても、本質的な改善、会社の長期戦略にも良い影響を与えてくれるような改善はできるものではない。

 本当に注目すべきは小手先の戦術ではなく、アップルはなぜ組織や製品戦略を変えたのか、という核となる考え方だろう。