ヤマハ株式会社が、歌声合成ソフト「VOCALOID」をネット経由で楽しめる「NetVOCALOID」を公開し、サービスプロバイダー向けに提供を開始した。

 「VOCLAOID」とは、2003年に同社が開発したDTM(デスクトップミュージック)ソフトに分類される歌声合成システム。歌声パートの旋律と歌詞テキストを入力すれば、そのまま楽曲のボーカルパートを制作することができる。「ボカロ」という略称がついていることでもわかるように、パソコンや携帯電話で音楽を楽しむのが当たり前の世代には既にお馴染みなのだが、筆者も含め、そうではない世代の中には「初耳」という方も少なくないのではないだろうか。

 だが、そんな方でも、「初音ミク」という名称を小耳にはさんだことはあるかもしれない。「初音ミク」とは、ヤマハとライセンス契約を結んだクリプトン・フューチャー・メディアが製品化したDTMソフトで、「VOCLAOID」のボーカル音源の一つだ。

 「バーチャルアイドル」をプロデュースする「キャラクター・ボーカル・シリーズ」の第1弾であり、タイトル名は、架空の16歳の女性アイドル、すなわち“バーチャルアイドル”の名前である。

キャラクター・ボーカル・シリーズ
「VOCALOID」を一躍メジャーにした、クリプトン・フューチャーの「キャラクター・ボーカル・シリーズ」。

 声だけではなく、イラストによるキャラクターデザインを付加したのが大きな特徴であり、音源は、人気声優が担当。発売当初から、初音ミクが歌った楽曲や、キャラクターイメージを使った動画が動画投稿サイト「ニコニコ動画」に続々と投稿されて話題を呼び、発売1年で4万本以上の売上を記録した。

 DTMソフトが年間1000本売れれば大ヒットと言われるジャンルであることを考慮すると、まさに異例の大ヒット。さらには、同ソフトを使って作成された音源の一部がCD化、フィギュアなどのキャラクター商品も発売されるなど、「DTM」というジャンルを超えた存在へと駆け上がりつつある。

 さて、「初音ミク」人気でお馴染みになった「VOCALOID」だが、ソフト単体としてみた場合、誰もが手軽に扱えるというものではない。歌声を合成するという、いわゆる重い処理が必要であるため、稼動させるためにはある程度の高いPCスペックが求められることに加え、Windows専用であること、「初音ミク」に代表されるパッケージソフトが1万円超と比較的高額であることなどから、一般ユーザーには少々敷居が高かったのだ。

 「ニコ動」を携帯電話でチェックして「初音ミク」にハマった層の中には、DTMソフトに触ったことのない人、さらにはパソコンを所有していない人なども含まれると思われ、そんな人々から「もっと気軽に使ってみたい」という声は多数挙がっていたようである。

 こうしたユーザーの声を反映して開発されたのが、「NetVOCALOID」だ。音声合成などの重い処理をヤマハ側のサーバーで行うことで、携帯電話など低スペックの端末でも利用が可能になる。第1弾としては携帯電話で「初音ミク」などが利用できるサイトがオープンし、既に予想以上のユーザーを集めているという。

 「NetVOLCALOID」は、もちろん、携帯電話だけではなく、ゲーム機などにも転用可能。サービスプロバイダーとしても、ネットワーク上にある同ソフトを自社のサービスやコンテンツと組み合わせて新たな商品・サービスを開発することができ、開発にかかる時間・コストを大幅に短縮できるという利点もある。

 同サービスを活用すると、有名人の声で案内するカーナビ、歌う玩具など、さまざまな製品へ「声合成」を比較的手軽に組み込むことができ、企業広告などにも力を発揮しそうだ。その意味において、「NetVOCALOID」は、「デジタル世代のお遊びツールの進化」にとどまらず、マーケットのボーダーを越えて新商品・サービス開発の刺激剤となる可能性を秘めているように思える。

(梅村 千恵)