ネスレ日本100年の歴史において、史上初の生え抜き日本人CEOに就任した高岡浩三氏。「キットカット」受験生応援キャンペーンや「ネスカフェアンバサダー」など、数々の革新的な取り組みを実行してきた。『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)の刊行を記念して、著書では語り尽くせなかったマーケティングの真髄が明かされる。

世界で最もマーケティングが難しい国、日本

 私には、アメリカの経験は1年あるものの、基本的には日本というマーケットしか担当していない。しかし、それは決してハンデだとは思っていない。むしろ、アドバンテージであるとすら思っている。なぜなら、日本という国は、世界中で最もマーケティングが難しい国だからである。

 日本でマーケティングが難しい理由、それは、同じ業態での競争が世界でも類を見ないほど同質的だからだ。特に、商品の品質には非常にこだわっているため、ネスレで開発したどんな商品を持ってきたとしても、日本ですぐに売れるような商品はない。まして、ネスレ日本は、日本の平均的なメーカーの5倍以上の利益を稼ぐという使命を課せられている。ありきたりの発想領域では、勝負にならないのだ。

 ネスレ日本でマーケティングをやり続けたからこそ、いろいろ失敗もしながら、どうすれば効率よく、高い利益率を上げて成功することができるのかを常に考えていた。おそらく、ネスレのグループの中で誰よりも考えてきたと自負している。その結果、「ネスカフェ」も「キットカット」も日本発信の成功モデルを構築したため、そのブランドについては、ネスレ日本はグループで注目される国の1つにまで成長した。

 いまの日本は、21世紀型のビジネスモデル、成熟先進国のビジネスモデルが必要だと私は考えている。マーケティングとは、グローバルに共通した概念だ。しかし、その国の成熟度によって、マーケティングのあり方というのは異なってくるはずだ。フィリップ・コトラー氏が来日して話をしたときに、彼もそう言っていた。