当たり前に疑問を持つクセはダイバーシティで養われた

 こうした世の中の本質を見極める素養は、ネスレというグローバル企業によって養われたものだ。日本法人であっても、入社した時点で、外国人社員に対する説明責任を常に求められている。外国人が初めて日本に来ると、驚くことがたくさんある。私たちが何とも思ってないことに「なぜだ?」と質問され、言葉で説明できなければならないのだ。

 もし答えられないと、「日本人なのに日本人のことがわかってない」「きみには能力がない」と思われてしまうため、必死になるしかない。すると、必然的に彼らと同じ感覚で日本を見るようになる。当たり前のことに疑問を持つクセがついた。

 たとえば、なぜ、日本には300社、400社というスーパーマーケットがあるのか。先進国に目を向けると5社、オーストラリアは2社しかない。なぜ同じ先進国で小さいリージョナルチェーンがまだ生き延びているのか。その私なりの答えは、生鮮食品だ。

 日本人は、四季折々、地域ごとに違ったものを食べる。そのため、リージョナルチェーンは、生鮮食品に対してのバイイング・パワーが、ナショナルチェーンにも負けないのだ。言い方を変えれば、ナショナルチェーンが勝てないのである。アメリカほどの広大な国土であれば、野菜や肉をすべて冷凍で置いても、消費者に納得して買ってもらえるが、日本ではそうならない。

 また、日本のメーカーは次から次に新製品を出すというビジネスモデルだが、そのほとんどが1年後には消えている。非常に多くの新製品が投入され、市場に残るために安売りし、また新製品を投入してと、これほど複雑な流通をマネージするために、何百社もあるリージョナルチェーンと直接取引できるわけがない。すると、卸売業が重要だという結論になる。そのため、日本の優秀な卸売業を大切にするための戦略を立てるという結論に至るのだ。

 当たり前のことに目を向け、その本質を考えないといけない。日本人は、この本質をディベートするというプロセスを行ってこなかった。物事の本質を考えることが苦手なため、マーケティング力が弱くなってしまうのである。

 文化的背景の異なる人間は、本質を考えるようになる。ダイバーシティはそうした視点を育むきっかけになるだろう。


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 成熟市場における消費者の嗜好は、かつてないほど多様化している。消費者のニーズは一人ひとりすべて異なると考えられ、いち早く察知することに企業は躍起になっている。くわえて、ビッグデータなど情報収集ツールの進化によって、個人の消費活動が詳細かつ正確に捕捉できるようになったことも、その傾向に拍車をかけている。
 しかし、本当にそれで消費者の心を射止めることができるのか。消費者は自分自身の本心を把握しているとは限らない。気づいていないことは、いくら聞かれても答えられないのである。マーケティング・リサーチの結果をうのみにすることは危険である。本稿では、むしろ人間の本質を見極めたうえで、社会の環境変化からニーズの変化を探り当てることが大切であり、それこそが本来のマーケティングであると説く。

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