3月19日、参議院は田波耕治・国際協力銀行総裁を日本銀行総裁とする政府の人事案を否決した。「官邸も民主党も財務省も、振り上げた拳を、誰も最初に下ろせなかった」(財務省幹部)。これで日銀総裁の空席が確定し、副総裁就任が確定した白川方明・京都大学大学院教授が総裁代行を務める。迷走の深層を探った。

 「なぜ福田康夫首相が財務省の論理そのものの田波総裁案に乗ったのか、まるでわからない」。自民党のある有力議員は嘆いた。

 財務省は、すでに5年前、武藤敏郎氏を副総裁に送り込んだことで、次の総裁ポストを獲得したと読んでいた節がある。裏を返せば、それが速水優氏、福井俊彦氏と2代にわたって日銀出身者に総裁を譲る暗黙の条件だった。小沢一郎・民主党代表に近い斉藤次郎元大蔵事務次官の根回しも、入念だったと見られる。

 しかし、事態は2月29日に一転する。衆議院での予算と税制関連法案の強行採決によって民主党の対立姿勢が強まり、武藤完全拒否となる。

 あわてた財務省は、あらゆるOBの入省年次バランスを最優先にする“しきたり”から、民主党に拒否された武藤副総裁より年次が上の人物を洗った。

 民主党が受け入れの可能性を示した黒田東彦・アジア開発銀行総裁は選挙で選ばれた国際的公人であり、事実上不可能だ。渡辺博史元財務官は日銀副総裁に決まった白川氏と年齢が近く、コンビを組むには“据わり”が悪い。

 では、民主党が武藤氏を財務次官経験者として拒否したにもかかわらず、次の候補に同じ経歴の田波氏を選んだのはなぜか。

 「財務官は日銀総裁の有資格者だが、次官経験者は対象外という前例だけは認められない」(財務省関係者)という意思表示といえるだろう。これこそ冒頭の自民党議員が示した財務省の論理そのものである。

 一方、財務次官経験者を連続して拒否した民主党の理屈も、一種独善的で論理的とはいいがたい。民主党は財務省出身者だから反対しているのではないとの立場を取った。だが、“日銀への天下り批判”は、彼らが承認する可能性があった財務官出身者でも向けられるべきものだ。

 「財金分離」を叫び、財務次官経験者、つまり主計局経験者は財政圧力から金融政策を守れないという指摘も、海外では財務次官経験者が名中央銀行総裁として活躍している事例は多く、政府・与党に反論された。