日本人にはないタフネゴシエーションに根負けするリスク

小山洋平弁護士

「現地の慣習や文化への理解不足が問題となるのは、日本との違いを日本企業に適切にアドバイスしてくれる専門家が少ないからです。現地の法律事務所は、日本の法律や慣習をあまり理解していないので、日本企業が特に気を付けるべき点がどこにあるのかを説明できないことも多いのです」と小山弁護士は指摘する。

 たとえば、日本ではビジネス上の信頼関係を前提として詳細な合意事項を契約書に規定しない場合も多いが、インドは基本的に契約社会なので、日本企業がインドの取引先に要求すべき事項は、逐一契約に規定する必要がある。この違いを理解せず、相手方との信頼関係に期待して契約上の取決めを曖昧にすると、思わぬ問題に発展する可能性もある。小山弁護士は「日本企業のインド進出が増えるにつれ、両国の法律の違いや対処法に精通する法務のプロのニーズは高まっています」と語る。

 そうしたニーズに対応すべく、森・濱田松本(MHM)法律事務所早くからインドの企業法務や労働問題に精通する若手のエキスパートを何人も育成してきた。小山弁護士もその1人だ。

 現在、同事務所ではインド進出企業のため、日本人、インド人合わせて約10名の弁護士を配置。進出時における現地企業のM&A(合併・買収)やTOB(株式公開買い付け)、合弁契約・合弁解消といった取引関連から、進出後の労務問題、債権回収、訴訟への対応など、幅広いサービス領域をカバーしている。

「インド企業と合弁契約を結ぶ際にも、法律の違いが分からず、不利な契約を結んでしまうことがあるようです。たとえば日本では議決権は1株につき1票ですが、インドでは株主1人につき1票と決められています。株式数で過半を握っていても、合弁相手のほうが株主の人数が多いと、経営のコントロールを失いかねません」(小山弁護士)

 インド人特有の"粘着質"とも言えるタフネゴシエーションに根負けして、不利な契約条件を押し付けられてしまうケースも珍しくない。「双方合意に達したと思っても、調印ギリギリまで契約内容の修正を求めてくるのがインド流。本当に最後まで気を抜くことができません。しかし、わたしたちはそうした修羅場を数限りなく経験していますし、事務所内のインド人弁護士や、提携する現地法律事務所の支援を仰ぐこともできるので、依頼主に有利な条件で交渉をまとめることができます。進出する日本企業はそうした専門家を味方に付けることが非常に大切です」と小山弁護士は語る。