経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第44回】 2013年11月26日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【熊坂賢次氏×武田隆氏対談】(後編)
時代を読みとるカギは“おしゃべりなロングテール”

無数のマイノリティたちが語るリアル

個人属性をさほど深掘りしなくても社会文化事象の理解が可能だったかつてと違い、今は「大衆」や「平均」が意味をなさなくなった時代。1人ひとりが多様な生き方・働き方をし、思い思いの感想をつぶやき、意外な趣味に興じる。こうなると、社会やマーケットのトレンドを読みとろうと思っても、なるほど単なる定量調査では手に余ってしまう。ではどうしたら?
そこで熊坂教授が教えてくれたのはこうだ――「いまつぶさに観察すべきは、“おしゃべりなロングテール”です」。

「おしゃべりなロングテール」の時代

熊坂賢次(くまさか・けんじ)
1947年1月28日生まれ、東京都出身。現在、慶應義塾大学環境情報学部教授(シニア有期)。専門はライフスタイル論と社会調査。1984年「素顔なんて、ないの」というゲームブック形式の調査で新しい方法論に目覚め、2000年にはiMapというインターネット調査を実施、つねに社会調査に革新的で社会実験的な手法を導入する。その後、柔らかい構造化手法を開発し、インターネット上のビッグデータから社会文化現象を計量的に解釈しようと、若手の研究者と一緒になって、必死に楽しく模索中。

熊坂 サイレント・マジョリティという言葉がありますよね。大量にいるけれど、沈黙する人々。彼らは、近代社会の主要な構成メンバーとして存在していました。彼らに向かってマスメディアは発信していたし、そうすることで効果も出たんです。でもいま僕はそれと対照的な「おしゃべりなロングテール」の時代だと思っています。

武田 「おしゃべりなロングテール」とは、なんだか楽しそうですね。どういったものを指すのでしょう。

熊坂 ソーシャルメディア上でさまざまなことを発信し、小さくつながるコミュニケーションの連鎖で構成されるコミュニティ。それらが無数に散らばり、ダイナミックに新しい様相を見せるのが、「おしゃべりなロングテール」です。その有り様をつぶさに観察していかないと、今の時代は読みとれない。たとえば、ツイッターのつぶやきを解析するにしても「こんなツイートが多かった」というのだけを取り出して、トレンドを語るなんて意味がありません。

武田 ソーシャルメディアに現れるさまざまな生活者の「おしゃべり」を見れば見るほど、多様な彼らの実態を容易にトレンドとして把握するのはむずかしいことがわかります(本連載第33回松岡正剛氏との対談参照)。

熊坂 ビッグデータで100万件といっても、大した数じゃないんですよ。たとえば1人で10件のつぶやきとか購買データを持つとすると、人数は10万程度ですね。その人数について年齢、性別、家族構成、地域なんかの個人属性をすべて掛け合わせて10個聞いたら、属性だけで数千のパターンになって、その各パターンに最低100件のデータを想定すると、それだけですぐに100万件を超えます。

 今までは、ここまで個人属性を深掘りしなくても社会文化事象の理解が可能だったのです。たとえば、夫の社会的地位さえわかれば、その人の学歴や所得水準も推測でき、さらに妻や子どものデータがなくても、その核家族のことは理解でき、さらにどこに居住し、どんな趣味を持つかも、それなりに予想可能でした。だから属性の縮約が可能で、正確なサンプリングを行ったデータならば、数百人の調査で社会事象の把握が可能でした。それが産業化の段階、つまりマスが存在していた時代なのです。しかし今やもう、マスなんていません。

武田 大衆や平均が、意味をなさなくなっています。「ペルソナ」と呼ばれるデータをもとに設定した架空のユーザーが満足するよう、商品やサービスを設計する「ペルソナマーケティング」が難しくなっているのも同じ理由だと思います。

 たとえば、ある店舗でペルソナマーケティングをするとします。東京品川店では、仕事帰りのサラリーマンが多いということがわかった。すると、ペルソナはサラリーマンの絵を書いて、その人の年齢、住所、職業などを設定していくことになる。でも、そのサラリーマンのまわりには新幹線で大阪から来た観光客もいるだろうし、店を贔屓にしている老夫婦もいるかもしれない。そういう多様な人たちをとりこぼしてしまう。それでもボリュームゾーンを押さえられた時代なら、そういったまわりを無視しても……。

熊坂 よかったんです。それでも儲かりましたから。でも今じゃ、それでは儲かりません。

武田 多様な人たちの姿が多様なまま表出してきました。ビッグデータはその多様な実態をどう抽出するかがテーマになるのではないでしょうか。

熊坂 僕はビッグデータが話題になる前から、ミクシィのコミュニティに集まる何万という人たちを調査していました。たとえば、あるゲームのコミュニティに参加している人たちが、他はどのようなコミュニティに所属しているのかを網羅的に収集していく。すると、数百万件というデータがとれます。それを腑分けしていくと、そのゲームのコミュニティ参加者は意外と株式投資に興味があるとか、デザイナー関連の仕事についていそうだ、など詳細な事実がわかってきます。

 これは明らかに今までの社会調査や市場調査のレベルではわからなかったことです。その意味で、ミクシィのコミュニティは社会調査に最適だったんです。

武田 わかります。コミュニティ間のつながりからいろいろなものが見えます。

熊坂 ビッグデータの価値は2つあります。1つは、何層にも深掘りをすることで詳細なデータとそこでのつながりを発見することができます。もう1つは、その深掘りしたレベルで100単位での比較分析が同時にできることです。さらに、そこにテキストが付随していれば、自然言語解析ともつなげることができて、まさに定性調査につながる可能性がありますね。

武田 それは弊社で、コミュニティ内で起こっていることを分析する手法にも似ています。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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