自由な発想で生まれた三者三様の作品

高岡 他の監督さんの作品をご覧になって、いかがでしたか?

佐々部 本広さんの『Regret』は10分くらいの短編です。僕が表現してきた世界観とはまるっきり違うCGが使ってあり、カットが早くて、ちゃんと1つの人生が語られています。本広さんらしい作品だと思いました。

 僕は、YouTubeと聞いたとき、YouTubeで配信するということは、音楽や踊りが必要だろうと思いました。月川さんの作品(2013年12月公開予定)はそれをきちっと表現されていると思います。キックオフとなる3本の映像の色がそれぞれ分かれていておもしろいですね。

特別座談<br />気鋭の映画監督とYouTubeが広告を変える<br />ネスレ日本が挑む新しいブランド戦略<br />【高岡浩三×佐々部清×本広克行×月川翔】本広克行(もとひろ・かつゆき)
1965年生まれ。香川県出身。1996年『7月7日、晴れ』で劇場映画監督デビュー。2003年に公開された『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』では、日本映画(実写)興行収入記録歴代一位の座を獲得。その後も『交渉人 真下正義』、『サマータイムマシン・ブルース』、『UDON』等、数々の作品を手掛ける。

本広 佐々部さんの『ゾウを撫でる』は、「あっ、これはもう映画だな」という印象です。大きいスクリーンでも見たいし、YouTubeで流れることで大きな宣伝になっていくんだろうなと思いました。月川くんの作品は、やっぱり勢いがあるなと。僕も負けられないなという感じです。やばいな、という思いがあるくらい(笑)。

月川 佐々部さんの映像は、重厚で良質な映画でありながら、オムニバスのように短く区切って見ていけるので、YouTubeで配信するという主旨にも沿っています。さすがだなと思いました。本広さんの作品は、一瞬で人生を振り返っていくというアイデアが何よりもおもしろくて、一気に観てしまいました。

監督の自由が制限され始めた映像の世界

佐々部 高岡社長との最初の出会いは、テレビ東京の『D×TOWN』(ネスレ日本がスポンサーを務める)でした。あの番組も、「街」と「D−BOYS」だけが条件に指定されて、あとは好きなようにやっていいというおおらかさが強いモチベーションになりました。

特別座談<br />気鋭の映画監督とYouTubeが広告を変える<br />ネスレ日本が挑む新しいブランド戦略<br />【高岡浩三×佐々部清×本広克行×月川翔】月川翔(つきかわ・しょう)
1982年生まれ。東京都出身。東京芸術大学大学院映像研究科修了。
卒業後は、長編作品やドラマの監督・脚本のほか、ミュージックビデオやCMも手掛けている。ウォン・カーウァイ、ソフィア・コッポラらが審査員を務めた「LOUIS VUITTON Journeys Awards 2009」にて審査員グランプリを受賞。また、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」の監督を担当。

月川 僕は、佐々部さんや本広さんのように劇場映画をまだ撮っていません。これから出て行こうとしている最中です。ただ、Webで放送されるドラマの仕事は結構いただいているなかで、映像業界が変わってきているなとは感じていました。

 どんな現場でもクラインアントから、「こんな感じにしてください」というオーダーが強いと思います。でも、今回はそれがありませんでした。「本当に自由ですか?」と何度も聞き返してしまうほど自由で(笑)。その意味でも、ありがたく取り組ませていただきました。

高岡 それは、私たちにとっては新たな発見だったんですよ。映画監督さんがそこまで自由を求めていることは知りませんでした。

本広 僕も同じ感想ですね。すごく自由に撮らせてもらいました。いつもはそんなことできないんですよ。台本通りきちんと撮らないといけないし、「自分の思いはこれです」と見せても、いろいろな意向があるので直しを入れられることがほとんどです。

 それはそれで正しいことでもあるなとは思います。まったく直しがないので、「大丈夫かな……」と急に怖くなってきたくらいですから(笑)。題名ですら編集の段階で急に変えたり、事前に何も考えないで、現場で考えていく。そのときの発想をどんどん入れさせてもらえました。今回の作品は、自分の中でヌーヴェルヴァーグを超えたなと思いましたね(笑)。

高岡 作品の中身については100%お任せする、というのが今回のモデルの新しさです。私たちから、こんな映画をつくってほしいという要望はありません。クリエイターではなく、プロデューサーのような役割です。いつでもどこでも、たくさんの方に作品を楽しんでいただける場と仕組みをつくることだと思っています。

 また、これだけすばらしい監督さんたちに登場していただいたことは、ある意味でエポックメイキングな仕掛けじゃないかなと。この作品を何十万ではなく、何百万、何千万の人に見ていただくために、これから販促をかけていかなければいけません。責任感でいっぱいですよ。