メーカーの宣伝からブランドはつくれない

高岡 企業が映画のスポンサーになって、映像のなかに自社製品を登場させる「プロダクトプレイスメント」は、ちょっとした新しい広告手法としてこれまでもありました。しかし、私自身も、マーケティングチームも、そこまで斬新だとは思っていませんでした。

 自由度のある映画のコンテンツと私たちのブランドをどこかで結びつけるためには、どうしたらいいのか。それで思いついたのが、私たちがつくらないということです。広告という表現が適切かはわかりませんが、監督や出演者によって、宣伝とは違う形で、私たちの商品や会社について語ってもらおうという取り組みです。

 メーカー側が広告として何かをつくるよりも、第三者に言っていただいたほうが実は説得力があるんですよ。今回、佐々部監督は、自分の人生と「ネスカフェ」を照らし合わせて語っていただきましたよね。契約はしていないんです(笑)。本来であれば、何千万、何億円とお支払いしなければいけない効果を生むと思います。

佐々部 私は、ネスレ製品のCMを撮ったわけではありません。9分割したので、それぞれの章の冒頭に9個、「ネスカフェ」と僕の歴史を話しました。あれ以来、ネスレの製品以外飲めなくなりました(笑)。

高岡 ありがとうございます(笑)。YouTubeで映画を観ていただくたびに、最初の1分、2分で、何百万から何千万という方にそれを目にしていただく。私たちにとってもすごいコミュニケーションだなと思います。

月川 去年、ネスレさんの提供でドラマを2本撮らせてもらいました。普段、脚本は脚本家の方に書いてもらっているんですけど、この2年間で、自分で脚本に挑戦させてもらった作品はその2本です。来年も何かご一緒しませんかとお願いさせてください(笑)。

佐々部 僕の企画は、95分の劇場にもかけられるサイズですが、日本の映画会社やテレビ局のどこに持って行っても絶対に通らない企画をやりたいと思っていました。それを受け入れていただいたことには、感謝の気持ちでいっぱいです。

 僕の作品は、最終章を見せていません。YouTubeを繰り返して観てほしいという気持ちもありますけど、やっぱり大きいスクリーンで、劇場でやりたいという抵抗です。これは高岡社長と膝を突き合わせて話し合う必要がありますね(笑)。この取り組みをきっかけに劇場につながれば、ネスレさん、スタッフ、キャストへの恩返しにもなると思っています。

本広 今回のように自由に表現できる場所はここしかないんじゃないか、というくらい大きな砂場です。若い監督はたくさんいるので、僕だけでなく、ぜひ彼らにもチャンスがあり、その砂場で闘いを繰り広げていただきたいです。そうなれば、日本映画はもっと勢いが出るんじゃないかなと思います。


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 成熟市場における消費者の嗜好は、かつてないほど多様化している。消費者のニーズは一人ひとりすべて異なると考えられ、いち早く察知することに企業は躍起になっている。くわえて、ビッグデータなど情報収集ツールの進化によって、個人の消費活動が詳細かつ正確に捕捉できるようになったことも、その傾向に拍車をかけている。
 しかし、本当にそれで消費者の心を射止めることができるのか。消費者は自分自身の本心を把握しているとは限らない。気づいていないことは、いくら聞かれても答えられないのである。マーケティング・リサーチの結果をうのみにすることは危険である。本稿では、むしろ人間の本質を見極めたうえで、社会の環境変化からニーズの変化を探り当てることが大切であり、それこそが本来のマーケティングであると説く。

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