リンパ球を眠らせる治療と
起こす治療

 免疫寛容を誘導するための研究や新しい試みは、世界中で今、免疫学・免疫医療の最重要課題の一つとして注目されている。奥村教授の研究チームは、その分野において画期的な発見をし、夢の治療とも称される免疫寛容導入療法の開発に成功したのだという。

「私たちが発見したのは、活性化したリンパ球をしびれさせ、おとなしくさせる方法です。間違って自分自身を攻撃するリンパ球だけを体外に取り出して、しびれさせて戦えないようにしたものを再び体に戻す。すると、体内で新しく供給される細胞にも同じ教育がなされる。このリンパ球の再教育システムがほぼ完成しつつあります」(奥村教授)

 現在、最も激しい免疫反応を起こす臓器移植において、他者の臓器に応答して攻撃する免疫細胞だけを取り出してシグナルを与え再教育した後、体内に戻すという治療が始められている。

「これにより激烈な拒絶反応を抑え、免疫抑制剤を長期使用せずに臓器移植を完遂することに光が見えてきました」

 奥村教授はこのように、免疫のメカニズムを利用した難病治療への道を示す。

「免疫寛容が、いかに反応を抑えるかという『リンパ球を眠らせる』治療法であるのに対して、一方では、がんのように自己の細胞に対して、いかに免疫反応を高め攻撃させるかという『リンパ球を起こす』治療法も大きく進歩しています。これらは、いわばプラスとマイナスの関係です。両方を知り、うまく組み合わせることが今後は重要となってきます」(奥村教授)

 自己か非自己か、寛容か攻撃か、免疫系の認識と行動を司るシステムの解明が、新たな医療への扉を次々と開き始めている。