映像の入り口から出口までを網羅する――。キヤノンが長年抱き続けてきた野望が、いよいよ実現する。

悲願のディスプレイに参入 <br />ソニーの牙城狙うキヤノンの捲土重来「画質へのこだわりは他社に負けない」と強調するキヤノンのディスプレイ開発センターの和愼一所長と業務用ディスプレイ
Photo by Hiroyuki Oya

 欠けていた最後の“ピース”を埋めるべく、キヤノンが満を持して来年1月から販売を始めるのが30型の業務用ディスプレイ「DP―V3010」である。ハイビジョンの4倍の解像度の「4K」映像を表示でき、価格は約300万円となる見通しだ。

 静止画の分野ではカメラとプリンターという映像の入力、出力装置を手がけてきたキヤノンにとって、動画を表示するディスプレイ事業の成功は、御手洗冨士夫会長兼社長の長年の悲願であった。その挑戦の代表例であり、また、苦い記憶でもあるのがSED(表面電界ディスプレイ)事業だろう。

 キヤノンは次世代テレビの本命と位置付け、1999年から東芝と共同開発。当初は2002年に月5万台のSEDテレビの生産を目指していた。だが、開発延期が繰り返され、結局、10年に家庭用SEDテレビの開発凍結に追い込まれた。「技術は確立していたが、コスト面で量産のメドが立たなかった」とディスプレイ開発センターの和愼一所長は悔しそうに振り返る。

家庭用でなく業務用で勝負

 家庭用テレビで辛酸をなめてから3年――。業務用ディスプレイで勝負を賭けるキヤノンが狙うのは、米国ハリウッドの映画編集センターや放送局など、高精細な映像を扱うプロ向け市場である。

「動画の出力が4Kという新しい世代に移り変わるタイミングに照準を合わせた」と語る和所長が、ディスプレイ普及の牽引役として期待を寄せるのが、映画製作や放送局などで人気の業務用ビデオカメラ「シネマEOS」シリーズだ。