橘玲の日々刻々 2013年12月2日

医薬品のネット販売規制は、誰の利益を守っているのか?
[橘玲の日々刻々]

 楽天の三木谷浩史社長が、医薬品のネット販売規制に抗議して、政府の産業競争力会議の民間議員を辞任すると表明しました(慰留され11月18日に撤回)。この会議はアベノミスクの三本目の矢である成長戦略の要とされていましたが、その象徴的存在だった三木谷氏に三行半を突きつけられたことで、安倍政権の規制緩和への本気度が問われています。

 楽天の子会社などが原告となった行政訴訟では、医薬品のネット販売を禁止した厚労省令を、最高裁が「薬事法の趣旨に適合せず違法で無効」と判断しました。これでようやく自由化が進むかと思えば、厚労省は薬事法を改正して一部の市販薬のネット販売を禁止するほか、処方薬については対面での販売を法律で義務づけるといいだしました。これでは三木谷氏が激怒するのも当たり前です。

 厚労省は、ネット販売を禁止する五つの市販薬は「劇薬」で、医師が処方箋を出して薬剤師が提供する処方薬については「ネットでは安全が保証できない」と説明しています。

 一見するともっともらしい理屈ですが、規制について考える場合は二つの視点が大事です。ひとつは「その規制は誰の利益を守っているのか」ということ。もうひとつは、「規制に科学的な根拠があるのか」ということです。

 患者のなかには、身体が不自由で薬局まで行くことができないひともいます。病名を知られるのが嫌で、薬を買うのを躊躇しているひともいるでしょう。処方薬のネット販売が解禁されれば、こうした患者の利便性が大きく向上することは間違いありません。

 厚労省や薬剤師の業界団体は「ネット販売は危険だ」と繰り返しますが、対面販売の強制によって不利益を被っているひとたちの存在についてはいっさい口にしません。また一部の市販薬への規制では、そもそも「劇薬」が町の薬局で誰でも買えること自体がおかしいのですが、これについての説明もありません。

 規制緩和をめぐる議論でいつも不思議に思うのは、なんの根拠も示さずに情緒に訴える主張がいまだにまかり通っていることです。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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