スペシャリストか、それともジェネラリストか

河合 ジョブ・ディスクリプションの話はおっしゃる通りだと思います。例えば、企業が人を雇うときにも、「この人のジョブ・ディスクリプリョンをどうするか」ということにマネジャーもすごく悩みます。「これは彼の仕事としていいのか」と真剣に考えますね。上から押しつけるだけじゃなくて、下からも「これは違う」「こんなポストを作ってほしい」と意見が上がります。

 日本の場合、ディスクリプションに書いてないことをやらせますよね。いい意味ではジェネラリストでもありますが、運が悪いと、自分の専門性をまったく育てられずに、いいように使われてしまうリスクがあると思うんです。

 使う側としたら、「ジョブ・ディスクリプションにない」と断られるリスクがないから、使いやすいとは思いますよ。国際機関では、「この資料を作ってください」「ジョブ・ディスクリプションには書いてないからやりません」って平気で言う人もいます。でも、こちらも何も言えないですよね。そこは契約ですから、そこで説得しなければならないわけです。

川本 私は、大学に移って契約で働いていた期間を含め、マッキンゼーで20年近く働いていましたが、いろいろな能力をそれぞれ「スキル」と規定することが印象的でした。例えば、「客観的に議論する」ということもスキルの1つで身につけなければいけないので、用意されたクラスで学ぶこともできます。「相手をどれだけ信頼してオープンになれるか」も訓練のなかで1つの技能として身につけました。もちろんOJTもありますけど、そこが日本の企業と大きく違う点だと思うんですよね。

河合 本にも書きましたけど、BISでは「Dealing with Difficult People(気難しい人と付き合う方法)」というセミナーがありました。それもスキルですよね。自分の気質の問題だと考えないで、それを解決する方法があることを学びますから。

川本 そうそう。

河合 逆に、日本と比較してあまりよくないなと思う面は、海外では自分の上役にOJTを期待することができないことです。「プロとして雇っているわけだから、自分たちで勉強しなさい」と言われてしまう。さっきの話にあったように、チュートリアル制度で鍛えられている人にとってはいいと思うんですよ。でも、上の人が教えてくれるのを期待して、自分で学ぶノウハウがない人にとっては難しい環境ですね。それに比べて日本は新人教育に始まり、上司が部下を育てようという企業カルチャーがありますね。

川本 日本の企業は新卒一括採用、終身雇用が大前提なので、そのあたりの意識の違いがあるかもしれませんね。でもいずれにせよ、これからは自ら学ぶ、学び取る力がますます大事になりますね。

次回更新は、12月13日(金)を予定。


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

『自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい――京大キャリア教室で教えるこれからの働き方』(河合江理子 著)

特別対談<br />スペシャリストか、それともジェネラリストか<br />日本と海外で見た人材育成制度の違い<br />【早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授・川本裕子×京都大学国際高等教育院教授・河合江理子】

あなたは出口の見えない努力をつづけていませんか?ハーバード、マッキンゼー、INSEAD(欧州経営大学院)、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)…日本・アメリカ・ヨーロッパ、本物の世界を知る日本人が明かす、国境を越えて生きるための武器と心得。

 


ご購入はこちら⇒
[Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]

◆川本裕子氏の著書、『川本裕子 親子読書のすすめ』(日経BP社)『金融サービスのイノベーションと倫理』(共著、中央経済社)なども好評発売中です。