“老老介護社会”へと向かう日本の歪みが、少しずつ噴き出しつつあるのではないか。

 長期化・高年齢化する「引きこもり」当事者を年老いた親が養い続ける。そんな先行きの見えない家族の未来を暗示するような悲劇が、またしても起きた。

 20年以上引きこもっていた44歳の長男が、広島県福山市の自宅で、70歳の父親によって殺害されたのだ。

 いったいなぜ、悲劇を未然に防ぐことができなかったのか。

 事件が起きた現場は、JR福山駅から4キロほど離れた住宅地にあり、長男はこの自宅で1人暮らししていた。

 報道によれば、11月29日午後5時半ごろ、父親はベッドの上で長男の首を絞めて殺害。1階居間の布団の中に運んだとされる。

 父親は12月2日午後3時頃、「息子を殺した」と、妻に付き添われて福山西警察署に自首。警察が長男の自宅に駆けつけると、遺体は布団の上にあおむけで手を合わせる形で寝かされ、体に毛布、顔には白い布がかけられていた。

「息子から“殺してくれ”と頼まれた」

「自分も年を取り、息子の将来を悲観して殺した」

 警察は、こう供述する父親を殺人の疑いで逮捕。長男の首にはロープのようなものを巻かれた痕があったという。

 長男は、10代の頃に体調を崩し、高校を中退。何とか大検を受けて、大学に入学したものの、再び中退してからは、自宅に引きこもりがちになった。

 両親は10年ほど前、長男と別居。以来、母親が毎日のように訪れて、食事などの世話をしてきたという。

 もちろん家族内の状況や事情など、周囲には窺い知ることはできない。

 しかも、近所の住民は、20年以上にわたって、長男の姿を見かけたことがないと報道で語っている。引きこもり状態が長期化し、固まってしまった本人の心のひだに触れることなど、よほどの理解者でもない限り、至難の業だ。