「かっちょいい絶望」や「高尚な文学」は、
豊かな社会があってこそ

飯田泰之
飯田泰之
駒澤大学経済学部准教授。1975年東京生まれ。エコノミスト。専門は経済政策、マクロ経済学。著書は『経済学思考の技術』 『歴史が教えるマネーの理論』 『ダメな議論』など多数。

飯田:ぼくはこれまで論壇やメディアにあまり絡んでこなかったのでごく一般的な感想になってしまいます。日本のインテリって暗いじゃないですか。政治に警鐘をならしたり、グローバリゼーションに警鐘をならしたり、経済至上主義に警鐘をならしたり……警鐘をならしてばっか(笑)。これはメディアにも責任があると思うんですが、不幸な予言しかクローズアップされてこなかった。そしてアカデミズムもその状況を看過し続けた。言説の受け手についても、そういう現代の問題点を知ってる俺たちって偉いぜ、世間の連中とは違うぜみたいな感じで思考がとまってしまっている。なんというか論壇が「かっちょいい絶望の仕方」の見本市会場になっているように感じていました。

芹沢:いわゆる知識人の役割は、体制や権力を批判するところにあるとされてきましたからね。

飯田:批判は誰にでもできると思うんです。そして世の中のひとが分かってくれないなら分かってもらう努力をすべきだと思うんです。論壇が、メディアが、アカデミズムが「かっちょいい絶望」ではなく、「かっこわるい希望」の見本市になっていかなければならないと思うんですよ。

芹沢:そこはまったく同感です。言論人たちが「かっちょいい絶望」ごっこができたのも、高度成長がつくりあげた豊かな社会があったからですね。けれども、そうした安定社会は90年代から2000年代にかけて失われました。言論がここまで失墜しているのも、そうした環境変化を前にまったくチューンナップできていないからです。

荻上:かつて評論の世界では、「不良債権としての文学」論争というものがおこりました。簡単にいえば、権威があるようにみえる「制度としての文学」が、実際には長らく黒字化できていない小さな市場であり、さらには――ときに低俗としてバカにしているような――マンガなどの他領域の収益によって支えられていた「不良債権」なのではないかという、編集者の大塚英志さんらによる指摘にはじまった論争です。論争で共有されていたのは、文学をコケおろしたいというのとはむしろ真逆のパッション。当時は、マンガなどの市場も縮小傾向が見えてきていたので、もはや文学を支えられなくなるのではないかという危機意識があったんですね。

芹沢:高尚な文学は、じつはそれが蔑視していた消費社会の恩恵に浴していた。

荻上:これは、なにも「文学」だけに限らないことでしょう。実際、休刊した論壇誌のなかには、一度も黒字化したことがないものも含まれていました。派遣労働を批判するメディアが、労働環境としては、派遣に依存していたりとか。もちろん、平和ボケしたメディアが自覚するのは良いことです。そうしたメディアの多くは、古いレジームで非生産的な議論をしていたと、冷たく言い放つこともやぶさかではありません。ですが、清算主義的な思考のなかで「余剰」として扱われ、リストラされた言説のすべてが、「正しい整理」になるとは限らないのも事実です。

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