12月初旬に発足したばかりの国家安全保障会議がその初仕事として、「国家安全保障戦略」を決め、同時に「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」も閣議決定された。その内容を見ると、「目標」と「手段」が本末転倒の関係になっていたり、他国が支持しない「中国包囲網」を狙う姿勢を見せたり、さらには外国人の土地所有など、些末な問題も取り上げている。安全保障会議のスタッフの水準の低さを如実に示す格好となった。

「目標」と「手段」の取り違え

 12月17日、政府は「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を決定した。国家安全保障計画は今後10年程度の外交・安全保障改革の基本方針となるもので、12月4日に発足したばかりの国家安全保障会議の初仕事だ。

 従来の「国防の基本方針」(1957年5月20日閣議決定)は紙1枚でわずか4項目、①国連を支持し世界平和の実現をはかる。②民生を安定し、愛国心を高揚し、国家の安全保障の基盤を確立する。③国力国情に応じ自衛のため必要な限度において、効率的な防衛力を漸進的に整備する。④外部からの侵略に対しては、将来国連が有効にこれを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する――と定めた簡潔な文書だった。今回出た国家安全保障戦略は32ページもある。古来「戦略は簡単、明瞭でなければならない」と言われている。「こんなにゴチャゴチャと説明せざるをえないものが、戦略の基本方針か」とあきれる外なかった。

 一読してまず驚いたのは「国家安全保障の目標の達成をはかる」として「第1の目標は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、我が国に直接脅威が及ぶことを防止するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ最小化することである」としている点だ。抑止力の強化は安全保障の「一手段」であるはずで、それを安全保障の「目標」とするのは本末転倒だ。

 安全保障と防衛を同意語のように思う人が日本には多いが、安全保障の要諦はできるだけ敵を少なくすることにある。敵になりそうな国々ともなるべく関係改善を図り、友好国とは一層親密にすることが国の安全に重要だ。一方、防衛はまず仮想敵を決め、戦争を想定し、その対策を考えるものだから「安全保障」と「防衛」は重なる部分が多いとはいえ、根本的に異なる点がある。

 もし「抑止力の強化」が安全保障の第1の目標ならば、「国家安全保障戦略」の文書は不必要で「防衛力整備計画」だけで十分だろう。