なぜ消防署で住宅ローンがバカ売れするのか?
杉村晶孝 著 ダイヤモンド社刊 1429円(税別)

 久々にテントを担ぎ、ひとりで深山幽谷の大峰山系へ向かった。紅葉に染まった原生林の渓流。滝壺でシャワーを浴び汗を流す。刺すように冷たく凄烈だ。あたりはすでにとっぷり暗くなりはじめ、焚き火の真っ赤な炎の前で、この原稿を書いている。時おり、パチパチッと焚き火の火の粉が漆黒の闇に舞い上がる。山のにおいだ。近くで野獣の叫ぶような鳴き声が聞こえる。あの頃、よく焚き火に向かって、苦しい心を吐き出していたものだ。あれからもう足かけ6年がたった。

 その頃……。

 私は、華やかな世界の檜舞台、世間でいう国際派の「エリート」から、突然、3段とび降格を受け、惨めな窓際のどん底へ追いやられた。ちっぽけなプライドと自尊心は粉々に打ち砕かれ、屈辱感に辛苦をなめさせられる日々が続いた。

あほ丸出しで売上917億円達成!

 そんな挫折のどん底で、汗と恥と涙で地べたを這いずり、あほ丸出しでマーケティングの試行錯誤と実験を展開しはじめたのである。超ど級の窓際であった私には、もうしがみつくものなど何もなかった。生来のど根性とねじり鉢巻で、何もかも捨ててやるだけだった。そして、私は完全に現実を底に突き抜け、あほに徹しはじめていたのだ。

 それは、非常識ともいえる試行錯誤の繰り返しで、膨大な失敗の連続だった。まわりからは、あほ呼ばわりされ、怒られまくり、減給されながらも、累積約30万ヵ所にDMを送り続けたのだ。ターゲットは、お役所を主とする種々のリアルな職域やコミュニティ。そこへ990万枚の特殊なDM(「蜘蛛の子ばらまき型DM」)を送り、口コミ攻略を仕掛けた。まるで何かに憑かれたように、執念で口コミ営業を仕掛け、ついに、私は惨めさのどん底で笑いはじめていたのである。

 気がついてみれば、何もない新規のお役所を主とする職域やコミュニティで、なんと917億円の住宅ローンの売上を達成していた。

 さらに、お役所系だけでなく、実際のリアルな種々のコミュニティを対象にして、多様な商品、サービスで、試行錯誤の実験を行った。そこから、新たなマーケティング手法を確立したのだ。それは、あたかも「群れに投網を投げ、一網打尽にする」ような口コミマーケティング手法といえるものであった。

口コミが最も激しいお役所をねらえ!

 この口コミマーケティングの具体的なノウハウは、拙著『なぜ消防署で住宅ローンがバカ売れするのか?』で全面公開している。実際に、この手法を会得できれば、コミュニティや共同体等の構成員を顧客として一網打尽にできるのだ。これこそが、正真正銘のバズ・マーケティングであり、コミュニティ・バイラル・マーケティングだ。