株式レポート
1月14日 18時0分
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未練 - 広木隆「ストラテジーレポート」

みれん【未練】 [名・形動]
1. 執心が残って思い切れないこと。あきらめきれないこと。また、そのさま。
2. 熟練していないこと。また、そのさま。未熟。

誰にでも未練はある。好きだった相手を、そう簡単に忘れられるものではない。僕も未だに20年以上も昔の恋を引きずっている。別な女性と結婚し、子供ができた今も、尚である。無論、妻と娘を愛しているが、それは家族として、であって恋愛の対象ではない。家族愛と恋愛感情は別個に存在するというのが僕の持論だが、この主張、一部の方(主に女性)に圧倒的に不評である。「そんなの勝手な自己正当化よ」と言われている。「それだったら好きなひととは一生結婚できないということになるじゃない」と彼女たちは言う。その通りである、と僕は思う。それが人生最大の矛盾であり、だから人生は切ないことの連続だと思うのである。

ネガティブ・サプライズ

先週末発表された米国の雇用統計で、非農業部門の雇用者数の伸びが大幅に市場予想を下回った。従来から繰り返している通り、この指標は非常にブレが大きい統計であり、じゅうぶん「あり得る」話なので、本来は「サプライズ」ではないのだが、一応、マーケット的には「ネガティブ・サプライズ」とされている。それはいいとして、解せないのは米国株式市場の反応だ。発表当日の株式市場では、ダウ平均こそ7ドル安と小幅ながら3日続落したものの、S&P500とナスダック総合指数は上昇した。業種別にみても値下がりは金融株だけで、実質的には買い優勢の展開だった。

その理由として、FRBによる量的緩和縮小ペースが減速するとの観測が浮上したことが指摘されている。これは、

良い経済指標 → 量的緩和縮小につながり、株式市場の売り材料
悪い経済指標 → 量的緩和縮小が遠のき、株式市場の買い材料

という、一時、市場を支配したルールの「焼き直し」のようなものである。事実、週明けの月曜日、「量的緩和縮小の継続を支持する」とのロックハート・アトランタ連銀総裁の発言が伝わると、米国株式市場は急速に下げ足を速めた。つまり、これは量的緩和縮小が少しでも緩やかなものになるのを歓迎し、そうでないならネガティブというリアクションである。

未だに量的緩和を引きずっている。そこまで量的緩和が恋しいのか。未練がましいではないか。株式市場はテーパリング(量的緩和縮小)を完全に織り込んだはずだった。出口に向かうことへの抵抗は、かつてあったことは事実だ。しかし、ジャブジャブの緩和時代への未練を断ち切って、新しい一歩を既に踏み出したのだ。そしてそれを株式市場自身で祝ったはずである。その証拠が、昨年12月31日、ダウ平均もS&P500も2013年最後の取引を史上最高値更新で飾ったことではなかったのか。

「未練」の本来の意味は、文字通り、「未(いまだ)」に「練れて」いない - すなわち「未熟」ということである。未熟だから未練がましくなるのだと言える。ところで、米国株式市場はそんなに「未熟」なのだろうか?僕にはそうは思えない。むしろ老獪な存在である。であるなら、この量的緩和に対する未練がましい市場反応はどう解釈したらよいだろうか?

ひとつの答えは、「演技」である。本気で心配したり失望したりしているわけでなく、すべて確信犯的な行動なのだ。実際に、今回の雇用統計は米国を襲っている記録的な寒波の影響が大きい(詳しくはこちらのレポートご参照。14日付「米国マーケットの最前線」)。これは、あくまで異常値で一過性のものである。この統計によって前回決定したばかりの金融政策の方向性が変わるものでも、ましてやその基礎にある米国経済のトレンドが変わるものではありえない。
そんなことは、うちの益嶋でさえ書いていることだから、米国株式市場の参加者が知らないはずはないのである。この雇用統計の下振れは一過性 - であるなら、これを巡って量的緩和のペースが変更される云々という観測が浮上すること自体、ナンセンスだから、その後のロックハート総裁発言で急落というのはもっとおかしな話なのである。

仮に一度は浮上した量的緩和ペースの減速期待が、ロックハート発言で梯子を外されたとするならば、為替市場では円高ドル安の流れが反転していたはずである。ところが為替市場では円高ドル安がむしろ加速し、一時102円台にまで突っ込んだ場面があった。

おそらく今回の米国株の大幅安と為替市場での円高進行は、これまでたまってポジションのアンワインド(巻き戻し)が起きただけであろう。雇用統計の下振れというサプライズがその「トリガー(引き金)」になっただけで、根本的な見方を変えるところには至っていない。あくまでポジション調整の範囲内であろう。

別れた相手を忘れる方法

しかし、もうひとつのシナリオが正しいとしたら?すなわち、市場は本当に「未熟」で、「未熟」ゆえに未練たらたらであるとしたら?それは、もう、相当にやっかいなことになる。一度は別れを決心した相手(=量的緩和)が、やはり恋しくて忘れられない。未練たっぷりだから、何度も蒸し返す。淡い期待を抱き続ける。もう一度、振り向いてくれるのではないか、と。だから弱い経済指標を歓迎する。強い経済指標を拒否する。その「歪んだ」リアクションが残り続けることになる。もちろん、そんなのは「不健全」な姿だ。

「別れた相手を忘れる方法」というのをインターネットで検索してみた。

1. メールや写真を徹底的に削除する。
2. もらったプレゼントを捨てる。
3. フェイスブックやLINEなどSNSを絶つ。
4. 仕事や趣味に打ち込む。
5. スィーツを食べまくる。
6. 時間が傷を癒してくれるのを待つ。

どれもまったく根本的な解決になっていない。一番、良い方法は他の誰かを好きになること、新しい恋人を作ることである。

米国株式市場に量的緩和への未練を絶たせるような新しい恋人は現れるだろうか?候補はいる。企業業績の伸びが再加速することである。そうすれば、金融相場から業績相場へ移行できる。

しかし、この恋人候補、あまり頼りにならないかもしれない。米国株式市場は先週のアルコアを皮切りに2013年第4四半期の決算発表シーズンに突入している。トムソン・ロイターの調べでは2013年第4四半期の主要企業500社の利益は前年同期比7.3%増益が見込まれている。それが達成できれば第3四半期の6%増益から伸び率が増加するし、2013年前半の1ケタ半ばからは着実に1ケタの後半へと成長が加速しているようにも見える。

しかし、売上高の伸びはわずか0.4%の見込みであり、ほとんど売上高が伸びないなかでの増益、すなわちリストラなどコスト低減効果によるものだ。これを「成長加速」と呼ぶのはこころもとない。

しかも、今回の四半期決算発表に先立つ「プレアナウンス(事前の業績修正発表)」では、EPSの下方修正を発表した企業数は108で、上方修正を発表した企業数11との比率(N/Pレシオ:ネガティブ/ポジティブ・レシオ)は9.8となっている。この傾向が持続すれば記録的な悪さだとトムソン・ロイターは指摘している。



こんな調子では別れた相手(=量的緩和)への未練が断ち切れないのも無理はない。一番の被害者は、このナイーブなマーケットのヤケ酒に付き合わされる日本株式市場だ。今日、日経平均は米国市場での株安・円高を受けて一時下げ幅は500円を超える場面があった。とんだ「とばっちり」である。いい加減にしろ、と言いたい。

昔の恋人との思い出を、データ保存に例えると、男はフォルダ分けして保存すると言われる。それに対して女性は「上書き保存」。新しい恋人ができれば、昔の男はきれいさっぱり消去する。女性のほうが潔いのだ。

その伝で言えば、マーケットは「男性的」だ。だから、いつまでもウジウジと未練がましいのだろう。その気持ち、わからなくもないのだけれど。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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(マネックス証券)


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